ポケットで携帯電話が鳴っている。

「何の用だ」

〈ユニバーサル・ファンドのジョン・ハンターが撤退の用意をしている〉

 久しぶりに聞くロバートの声だった。首都移転が総理から発表されて以来、一度昼食を共にしただけだ。

「破綻したのか。バックにはたしか――」

〈中国もしばらくはおとなしくしているだろう。日本の底力と言うべきなのか、お前たち官僚の力と言うべきなのか。危ういところでなんとか踏みとどまった〉

「それはアメリカも同じだろう。日本の危機はアメリカの危機だ。だからお前がこれほど俺に協力してくれた」

〈俺が協力したと認めてくれてるのか。有り難いね〉

「友達は多いほどいい。それもいい友達は」

〈お前を見てて、つくづくそう思ったよ〉

「これからどうする」

〈いずれ帰国しなければならない。大統領に呼び戻されてる。報告が聞きたいんだろ。俺、個人としては、最後まで見届けたいんだけどな。帰国前にお前に会いたいんだが〉

「いつでも会えるだろ。飛行機で半日の距離だ」

 森嶋はそんな気がした。ロバートはいつも不意に現れた。

 日本も生き残る。アメリカ国債も売られなかった。中国はしばらくは外国に手を出さない。

 すべてがロバート、そしてバックに控えるアメリカの思い通りになったわけだ。

※本連載の内容は、すべてフィクションです。
※本連載は、毎週(月)(水)(金)に掲載いたします。