仕事は町工場の頑固職人と同じ

 僕たちの日々の仕事はIT業界のイメージとは真逆で、いたって地味。

 日本国籍のグローバル企業の多くは積極的に発展途上国に進出しているが、そういう国や地域では例外なくネットワーク環境が極めて劣悪だ。さらに、スコールのような気象現象が起こると、当たり前のように回線がプツッ、プツッと頻繁に途切れてしまう。

 そんな劣悪な通信環境は、時に現場の最先端でトラブルを発生させてしまう。遠く時差のある国や地域で頑張る日系企業にとっては、このトラブルがどれだけスピーディーに解消されるかが大きな意味を持ってくる。だから、僕たちはすぐさまソフトウェアに改良を加えて現場にフィードバックする。ただ、それを愚直に繰り返していくだけ。

 そんなことができるのも、そのソフトウェアが混じり気なしの純粋な「手づくり」で、僕らが中身のすべてを理解しているからだ。

 僕たちの仕事は本当に目立たない。でも、目立つ必要はない。裏方でいいのだ。ITベンチャーというと派手なイメージを持たれがちだが、その実態は、日本の強みである摺り合わせの技術、すなわち、“匠の技”での勝負に他ならない。その様はさながら、町工場の職人がオリンピックの砲丸投げ競技で使う鉄球を作っているようなもので、その球体のど真ん中にピタッと重心が来るように旋盤で削っていく技術と相通ずるところがある。