リーマンCIOの揺るぎないプライド

  〈イーパーセル〉は、もともと1996年にボストンで創業した会社で、同社製品の大規模採用第一号は、ニューヨークに本社を置く大手投資銀行グループ〈リーマンブラザーズ証券〉だった。この巨大投資銀行が、IBMやマイクロソフトのような誰もが知る大企業ではなく、無名のITベンチャーの製品を採用したのだ。

 その時、リーマンのCIO(最高情報責任者)が口にした言葉が、アメリカの強さを物語る。「君たちの技術が、今、世界の最先端を走っていると思うので採用を決めたい。しかし、いつか2番手に落ちることがあれば、その時は採用を見直させてもらう。だから、徹底的に技術力を上げ品質を向上させて欲しい」。

 リーマンのCIOのスタンスは明確だった。「自分たちがいいと認めたモノは、勇気を持って採用のリスクを取る。そして、それを使いこなすことで、より一層いいモノにしていく」。

 リスクを取ることの意味を正しく理解する人は、ベンチャーと接する姿勢が明らかに違っていた。誰も見向きもしないような技術や製品であっても、自分たちが「これは!」と評価したものにはためらわず投資をする。そういうシビアだが極めてフェアな姿勢が貫かれていた。

 リーマンのCIOが教えてくれたこと、それは、“企業の成長にとって、リスクを取らないことが最大のリスクである”という事実に他ならない。これこそが、アメリカという国家の懐の深さと強さだと痛感した。