年間100回以上、受講者数3万人を教えてきた企業研修や講演の中から、リーダーの悩みをピックアップ。内容によっては、「本当にこんなことが起きているの?」「ウチの会社ではこんなレベルの低いことは起きていないよ」と思うこともあるかもしれません。しかし、これらはすべて、実際に現場のリーダーが抱えている問題なのです。

自分の意識を変えるのでさえ難しいのですから、部下の意識を変えさせるのはもっと難しいもの。そこで、新刊どう伝えればわかってもらえるのか? 部下に届く 言葉がけの正解から、シーン別にできるリーダーはどのような言動で接しているのかを紹介していきます。

できるリーダーは「スピード」ではなく「スタート」を大事にするphoto: Adobe Stock

リーダーの不正解:仕事を「速く」する
リーダーの正解:仕事を「早く」する

 残業には弊害があります。頑張るのはいいことですが、残業で疲れがとれず、翌日の仕事の質を下げる可能性があります。できるだけ仕事は時間内に終わらせるべきです。

 人材サービス会社の企画部に所属するリーダーAさんは遅くまで残業をしている部下Cさんに対して、「もっと早く仕事を終わらせて残業をなくせないか」と悩んでいました。

 Cさんは非常に真面目で、何でもかんでも「わかりません」などとリーダーに頼ってくることはなく、自分で考えて仕事を完成させようとしていました。

 むやみにリーダーに頼らず、自分で考えて取り組む責任感は素晴らしいものです。

 先日も企画書の作成をお願いしたところ、期日には間に合ったものの、前日夜遅くまで残業をしたようです。

 質の高い成果物で問題はないのですが、もう少し早く完成させられたのではないかと思い、企画書を作成するうえで、「どこに時間がかかったのか」をヒアリングしてみました。

 すると、キャッチフレーズを考えるのに時間がかかり、いいフレーズがないかをサイトなどでチェックしていたら、半日を費やしてしまったそうです。

 真面目であるがゆえに、何とかしてあげたいとAさんは強く思っていました。

 まず考えられるのは、「Cさんの仕事量が多いのではないか」ということですが、Cさんが抱えている仕事量はそこまで多くなく、丁寧すぎ、こだわりすぎて時間がかかっているようでした。

 こういった真面目で完璧主義な部下にはどのように対応したらいいでしょう。

 ここで絶対に言ってはいけないのは、
(×)「作業のスピードを速めよう」
です。漠然と言ってはいけません。次のことを意識して言葉をかけましょう。

…>不要な仕事を見極める

 完璧主義の部下のなかには不必要な部分にこだわっている人もいます。

 たとえば、社内会議提出用の資料で必要以上にデザインにこだわる、会議で上層部が判断するのに必須でないデータまで作成してしまうなどがあります。

 これらは不要です。不要な仕事は意識して削減していかねばなりません。

 部下の仕事を見て気づいたら、「重要な部分」と「不必要な部分」を伝えていくようにしましょう。

…>時間の制限を設ける

 このように企画書や資料を作成する場合、資料全体の構成や流れを考える時間である「思考時間」と、実際にPCなどで入力・作成する「作業時間」の2つに分かれます。

 作業時間は、不必要な仕事を見極めることである程度減らすことができます。

 しかし、作業効率の改善を意識してある程度減らすことはできても必要以上に速くしようとするとミスが起こる可能性が高くなります。

 たとえば1時間かかっていた仕事を効率性だけで30分に短縮することは難しいでしょう。

 そこで、重点的に減らすのは「思考時間」になります。

 思考業務はもちろん重要ですが、思考時間が短くても質の高いアウトプットになるようにします。

 イギリスの歴史学者であり社会生態学者、経済学者でもあるシリル・ノースコート・パーキンソンが提唱した「パーキンソンの法則」によれば、「仕事の量は、その仕事の完成のためにある時間をすべて満たすまで膨らんでしまう」とされています。

 制限をかけないと、人はぎりぎりいっぱいまで時間をかけてしまうそうです。

 ですから、思考業務に時間の制限をつけるのです。そうすることで、時間内で何とかしようとします。結果、作業の開始時期を早くできるのです。

 仕事を「速く」するのではなく、「早く」するのです。

 Cさんの例でいえば、
(○)「考える時間はいつまでと区切って、作業のスタートを早めよう」
とアドバイスするのです。

 思考時間に「締め切り効果」を設定することで、Cさんの仕事は大きく変わります。

 Cさんはその後、自分の仕事の中で不必要な仕事をリストアップし、減らしていきました。結果、仕事の質は下げずに残業時間を減らすことができるようになったのです。

 このように、作業の開始を早めるようアドバイスするだけで、部下の仕事時間は大きく変わります。この方法なら完璧主義を否定しているわけではないので、部下も納得して改善に取り組みます。

「速く」を意識させるのには限界がありますし、ミスが生じる可能性もあります。しかし、「早く」なら、質が悪くなることもありません。リーダーは「作業のスピード」ではなく、「作業のスタート」を部下に徹底させましょう。

【ポイント】
「思考時間」に締め切り効果を使えば、仕事時間の圧縮につながる