「戦後最悪の金融危機を今後も各国が協調して乗り切れるかどうか…。正直、いまだ不安が残っていると言わざるを得ない」

 現在、ベルギー・ブリュッセルのEU本部で働く関係者の多くは、このような不安を抱えているという。

 米リーマンブラザーズ破綻に端を発し、「世界恐慌の再来」とまで称される金融不安が猛威を振るうなか、この10月には世界各国で大胆な金融安定化の試みが矢継ぎ早に行なわれた。

 そんななか、特に目を引いたのは、欧州諸国の稀に見る「スピーディーな対応」である。

 欧米主要6ヵ国による異例の「協調利下げ」や、G7(先進7ヵ国財務相・中央銀行総裁会議)で相互確認された緊急行動計画を経てもなお、震源地である米国の金融当局は、市場安定化のための具体的な方針を示しあぐねていた。

 それに対してEU諸国は、16日に開催された首脳会議において、加盟27ヵ国が破綻懸念のある金融機関への資本注入、預金保護最低限度額の大幅引き上げ、銀行間の資金繰りの保証や金融再編のバックアップなどを進める包括的な金融対策を採択。その後すぐさま「行動」に移ったのだ。

EU各国の迅速な対応は
評価されているが・・・

 事前にRBS、HBOS、ロイズTSB、バークレイズなど大手銀行への公的資金注入を含む総額500億ポンドの救済策を発表していた英国に続き、スイス(中立国)はUBSに、オランダはINGに公的資金を注入することを決定。ドイツやフランスでも、それぞれ最大5000億ユーロ以上、総額3000億ユーロ以上の支援を軸にした「金融安定化法案」が議会で可決された。

 市場でもサブプライム損失で経営不安に陥った金融機関の救済・再編気運が高まっている。フランスの大手銀行ケス・デパルニュとバンク・ポピュレールが経営統合を模索しており、BNPパリバやドイツ銀行はオランダ、ベルギーなどが国有化したフォルティスの一部を引き受ける見通しだ。

 米国の金融危機ばかりが取り沙汰され、昨年発生した英ノーザン・ロックの取り付け騒ぎ以降、それ程大きくクローズアップされることがなかった欧州の金融危機。ここに来てまさに「つるべ落とし」のように不安が噴出し、一時は世界中が震撼したものの、結果的には各国の鮮やかな対応が強く印象に残った。

 実際、いち早く公的資金の注入を発表し、各国に協調を呼びかけた英国のブラウン首相は、その手腕が評価され、低迷していた支持率が急回復した。今や「金融危機退治の影の主役」と賞賛されているほどだ。