投資家やマスメディアは、企業分析の指標としてROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)を盛んに取り入れがちだ。しかし、この2つの指標を絶対的なものとして取り入れてしまうことに著者は疑問に感じている。

 今回のコラムでは、投資家やマスメディアが盛んにもてはやすROAとROEの問題点に迫っていきたい。そこで、前回コラムの中で紹介をした飲食料品業界と、それらとはトレードオフの関係にある不動産業界を取り上げて説明していこう。

対極に位置する業界を分析できるROA

 前回コラムでは、飲食料品などの流通業界が熾烈な薄利多売によって、倒産の危機に瀕している実態を紹介した。

 そして、前回同様、中小企業庁の『中小企業実態基本調査(平成20年調査結果)』を利用して、飲食料品などの流通業界が直面する“dead line”を紹介したのが、〔図表 1〕である。不動産業界やREIT(不動産投資信託)市場は、トレードオフ曲線の裾野(右下)に位置している。

〔図表 1〕売上高営業利益率と総資産回転率のトレードオフ
不動産不況下のREIT市場から分析する<br />「ROE(自己資本利益率)」指標の脆弱性

 飲食料品(卸売業・小売業)と不動産賃貸業は、〔図表 1〕では左上と右下というように、両対極に位置している。取り組んでいる業務も、まるで異なる。筆者はよく、スーパーマーケットの棚卸を「手伝わされる」が、これは体力勝負だ。一方、不動産業は、六法全書との格闘技である。

 このように、トレードオフ曲線の対極に位置する業界同士を、同じ土俵で比較することは無謀なのだろうか。