ソーシャル・ビジネスが熱い。いや、ソーシャル・ビジネスが熱いのは今に限ったことではない。ここ数年、日本でも世界でも社会貢献業界のホットイシューであり続けた。

 しかし、特に最近、ソーシャル・ビジネスの動きが加速しているように感じるのだ。根拠はないが、そう思う。つまり、仮説でしかないのだが、トレンド予測などというものは所詮、直感的な仮説でしかないともいえる。しかしこの仮説にも、根拠はないが理由はある。おもしろい事例がいくつか出てきていることだ。今回は、その事例をいくつか紹介するが、その前にソーシャル・ビジネスの定義をしておこう。

ユヌス氏が定義した
ソーシャル・ビジネスと投資家の関係

 ソーシャル・ビジネスの定義は、実はいろいろある。基本的には、社会問題の解決をビジネスの手法で行うという考え方だ。これはどの定義も共通している。ただ、ビジネスには投資が必要で、この投資に対する考え方にばらつきがある。

 最も知られているのが、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏が提唱する定義だろう。世界の代表的な社会起業家が定義しているということで、ユヌス氏の定義がソーシャル・ビジネスの定義だと思っている人も多いようだが、そのユヌス氏の定義でもっとも特徴的なものが「投資家は投資額のみを回収できる。投資の元本を超える配当は行われない」というものだ(『ソーシャル・ビジネス革命』(早川書房)より)。つまり投資家は、株式会社のようにIPOなどによって大儲けすることができないということだ。

 ユヌス氏がこのように定義したということで、投資家がリターンを求めないことがソーシャル・ビジネスだと思っている人も多い。しかしこの定義は、理念は立派だが投資家にとっては厳しすぎるという意見も多い。南米ではソーシャル・ビジネスといえども、投資家は儲けてよいことになっていて、それで投資資金が集まっているという。

 筆者もユヌス氏の考え方には否定的だ。投資額のみを回収できるということは、投資家はリスクを取れないからだ。リスクというものは、期待利回りに対して決定されるのは経済の基本だ。融資先の貸し倒れリスクが高ければ貸出金利は上がる。ベンチャー投資家がリスクの高いスタート・アップ企業に投資できるのは、成功したときのリターンが高いからだ。しかし、ユヌス流ソーシャル・ビジネスでは、リターンは最初からマイナスだ。金利分を考えるとゼロ以下なのである。これでは投資家はリスクを取れない。リスクが取れない投資は、事実上の寄付である。ユヌス流のソーシャル・ビジネスの考え方では、寄付するつもりでなければ投資などできないのだ。

 本来は経済学者であるはずのムハマド・ユヌス氏が、なぜこのようなリスクと金利の関係という経済や金融の大原則を無視したビジネス・コンセプトを打ち出したのか理解に苦しむが、これが将来にわたって拡大していくとは思えない。長くなって恐縮だが、ソーシャル・ビジネスを考える際に、ある意味で最も重要なポイントなので詳しく解説した。