経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第14回】 2012年10月2日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【井庭崇氏×武田隆氏対談】(前編)
クリエイティブなコラボレーションの秘訣とは

写真共有サイト「フリッカー」に投稿された膨大な数の写真。それらに埋め込まれた緯度と経度の位置情報をもとに真っ白な画像に点を打っていくと、点描画のような世界地図がみごとに浮かび上がる。インターネットがなければ実現できなかった「集合的な世界認識」の一例だ。
インターネットは単にデータを集めるだけでなく、参加者同士のコラボレーションをも促す。同様に、ソーシャルメディアはユーザー同士を単につなげるだけでなく、新しい発想を生み出し、育てるためのビークルとなる。
今回は、慶應義塾大学総合政策学部の井庭崇准教授をゲストにお迎えする。クリエイティブなコラボレーションを促すために有効な仕掛けとして井庭氏が注目しているものとは、いったい何だろうか?

フリッカーに投稿されたデータで“世界地図”が浮かび上がる

武田 井庭先生がSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)で研究されている、新しい創造性(クリエイティビティ)の研究というのは、どのようなものなのですか?

井庭 崇(いば・たかし)
慶應義塾大学総合政策学部准教授。1974年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学総合政策学部専任講師、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院 Center for Collective Intelligence 客員研究員等を経て、現職。著書に『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(共著、NTT出版、1998年)、『社会システム理論 :不透明な社会を捉える知の技法』(編著、慶應義塾大学出版会、2011年)等。

井庭 僕は、「新しいものが生まれるのは、いかにして可能なのか?」ということを研究をしています。いわば、創造性の研究です。でも、これまでやられてきた心理学的なアプローチではなく、人間、組織、社会、自然などに潜む創造のプロセスを、システム理論や方法論を駆使して考えています。

武田 井庭先生と私は同年代。団塊ジュニアと呼ばれる世代です。コンピュータが登場し、マルチメディアによって人間の能力が拡張していくという感覚、そしてそれらがつながっていくという興奮を20代前半で味わった世代でもありますよね。

井庭 そうですね。僕はそこから創造の研究に向かい、武田さんはそれをマーケティングの分野に活かしていった。分野は違えど、コンピュータとネットワークの可能性に魅せられたところは一緒ですね。

武田 先生は、情報社会における新しい創造のスタイルについても研究していますよね。昨年出された『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』でも、いろいろとおもしろい考え方や事例が紹介されていますね。

井庭 例えば、インターネットがなければ実現できなかった、集合的な世界認識(コレクティブ・パーセプション)の研究なんかは、とても興味深い試みです。

 これはアメリカのコンピュータ科学者のデイヴィット・クランドールとその同僚の研究なのですが、写真共有サイトの「フリッカー」に投稿されたデータだけを使って世界がどのように認識できるのかを見せてくれました。フリッカーのサイトに投稿された膨大な数の写真に埋め込まれた緯度と経度の位置情報をもとに、真っ白な画像に点を打っていくんです。そうすると、点描で見事に世界の地形が浮かび上がってきます。

武田 世界中の人によってバラバラに撮影された写真のデータが集まることで、世界地図が生まれるのですね。

井庭 そうなんです。写真が撮られた位置の情報を大量に集めると、世界地図を描くことができる。興味深いのは、海岸線なんかがくっきり浮かび上がることです。なぜかというと、人は海岸でよく写真を撮るからです。多くの人が写真を撮るので、その部分はくっきりと描かれることになるんです。

 同じ理由で、有名なランドマーク、例えば、ロンドン橋などもくっきりと描かれます。そうやって、世界の地形が浮かび上がってきます。これはまさに、インターネットがなければ実現できなかった集合的な世界認識、コレクティブ・パーセプションです。世界をトップダウンで見るのではなく、ボトムアップで集合的(コレクティブ)に見ることができることを実証してみせた象徴的な取り組みだと思います。

Flickrにアップされた写真の位置データから作成した集合的地図
(『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』p.187より)
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 これが、ネット上での新しい創造のスタイルのひとつ――集合的な創造です。これとは別の創造のスタイルとして、クリエイティブなコラボレーションというのも、活発に行われています。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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