由紀は安曇に聞いてみた。

「ハンナの件は後で説明するとして、寿司屋について言えば余分な仕入をしないからだ」

 寿司屋は経験的に、売れるだけのネタを仕入れる。だから、(大トロは例外として)寿司屋には長期在庫はない。

 このことは、デザイナーをしていた由紀にはよく理解できた。特に、若い女性の消費行動は敏感でつかみにくい。自信作でも、全く売れずにバーゲン会場に直行する製品は珍しくない。

 理由はこうだ。展示会シーズンを迎えると、デザイナーたちは夜を徹して新製品をデザインする。しかし、いくら頑張って世に送り出しても、なぜか売れない。そこで、ひとつでもヒットさせたい気持ちが製品の種類を増やすのだ。その結果、売れ残りの製品在庫は増え続ける。どうやら資金繰りが苦しくなる理由は、この辺にありそうだ。

「君の会社は何種類の製品を取り扱っているのだね?」

「ブランドは、子ども、女学生、独身女性、独身男性、既婚女性、既婚男性、シニア女性、シニア男性の8種類です。製品は1シーズンあたり1ブランドで約50種類ですから、全部で400種類くらいですね」

「製品ごとのサイズ、色を考えると、品種は2000種類を超えそうだね」

「そうですね……」

 あまりに多い品種に由紀は唖然とした。

 品種が多いことはわかってはいたけれど、改めて2000種類と言われると驚くばかりだった。しかも、新製品は春夏、秋冬、初春と3回発表する。つまり、毎年6000種類の新製品を世に送り出しているのである。

 しかし、なぜこんなに多い製品数を問題にしてこなかったのだろう。

「私が言うのも変ですけど、なぜ増えてしまうのでしょうか?」

 恥ずかしそうに由紀が聞いた。

「君たちが顧客のニーズを絞り込めないからだ。だから、ダメもとで品種を増やし、ブランドも増やしてきたのだ」

 顧客のニーズを絞り込めないから、製品種類が増加し、製品在庫が増え、資金繰りが悪化したのである。

「ブランドも品種も絞るべきですね」

「その通り。そうすれば在庫は減る」

(次回は10月31日更新予定です)


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