発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります。
今回は、大盛況に終わったオンラインイベント「発達障害なんでも人生相談」で寄せられた読者の質問と、借金玉さんの回答をお伝えします。

発達障害の僕が発見した「向いていない仕事から逃げるべきか、頑張るべきか」の見極め方Photo: Adobe Stock

<相談>
 発達障害を持つ人間として生きるうえで、「できない言い訳」と「適正理解からの撤退」の違いはどこにあると思いますか? 

 要するに、「これはできないんだ、と消極的な言い訳をして逃げること」と、「向いてないから自分から離れるんだ!」の違いはどこにあるのかを知りたいです。

<答え>

最優先で「絶対できない」を知る

 この2つの違いを突き詰めるためには、まず自分にとって「言い訳の余地がないほど、絶対にできないこと」が何かを知ることが大事です。

 例えば、16歳の僕は、初めてコンビニでバイトをして「明らかにこれは向いていない」と知りました。

 まさかの「宅急便の仕分け間違い」「温めた商品を電子レンジに入れっぱなしにする」「3回連続で醤油を爆発させる」「レジでお釣りを間違える」……入社して1ヵ月でありとあらゆる失敗をして「あ、このまま5年働いても10年働いても、一般的なコンビニ店員の方が持っているスキルが身に付かないな」とわかったんです。

 僕とは逆に「もしかしたら自分は、向いてないっていう言い訳をしてるだけかも……」と感じられる余地があるなら、その後も継続して挑戦してみる価値があると思います。

 発達障害を抱える僕たちにとって、一番大事なのは「世界は広い」と知ることです。目の前の世界がすべてであり、それに適合する形で思考がロックされてしまうと何もいいことはありません。

 例えば会社でも「自分のいる部署=すべての世界」になってしまうと、休めない、逃げられない、転職もできない、という状態になってしまう。

働いたことがないと「全部ダメだ思考」に陥りやすい

 そのために一番大事なのは、アルバイトでも、短期間でもいいので「まず、働く」こと。そしてできれば「いろんな場所で働いてみる」ことです。

 そもそも今までに働いた経験が少ないと、例えばコンビニで働いてうまくいかなかったときに「他も全部だめなんじゃないか」「自分は働くのに向いていない」と思ってしまいがちです。いわゆる「一つがダメなら全部ダメ」の思考パターンに陥り、新たな一歩が踏み出せなくなってしまう。

 反対に、ちょっとでも働くと、失敗することができます。失敗した経験を重ねることで「絶対できない」も「頑張ったらできるかも」も、体験として知ることができる。結果的に、ラクに生きられる場所への移動が可能になります。そうして、たとえ少しずつであっても自分と世界の関わり方を押し広げていくことができるのです。

★大好評著者インタビュー「だから、この本。」
第1回 発達障害の僕が「毎日怒られていた子ども時代の自分」に絶対伝えたい2つのこと 
第2回 発達障害の僕が発見した「学校に適応できず破滅する子」と「勉強で大逆転する子」の決定的な差
第3回 発達障害の僕が失敗から見つけた「向いている職業」「避けるべき職業」
第4回 発達障害の僕が伝えたい「意識高い系」の人が人生から転落する危うさ