日銀Photo:PIXTA

 いま、異端の経済理論「MMT」が大きな注目を集めている。巨額の債務を抱える日本でありながら、「インフレにならない限り財政赤字は問題無い」と説き、さらなる財政出動を促す。経済政策にまで掲げる政党も登場した。

 日本財政や将来年金の末路を100以上のデータをもとに徹底検証した『キリギリスの年金 統計が示す私たちの現実』(朝日新書)で、MMTの持つ危うさに繰り返し警鐘を鳴らす弁護士の明石順平氏が特別に寄稿した。

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 MMTとは、Modern Monetary Theory(現代貨幣理論)の略です。これは端的に言うと、「自国通貨建ての国債はデフォルトにならないので、インフレにならない限り、財政赤字は問題無い」という主張です。だからもっと借金して財政支出をたくさんしろと言うのです。しかし、これは全く真新しいことを言っていません。

 自国通貨建の国債の場合、市中消化しきれなくなれば、最後の手段として自国の中央銀行に直接引受をさせれば、形式的にはデフォルトを避けることができます。

 ところが、それをやると事実上政府の裁量で通貨を発行し放題になることを意味します。すると、為替市場の参加者達は「円がたくさん発行されて円の価値が下がるぞ」と予想し、円が売られてしまいます。そうなると円安インフレが発生します。円安インフレが進行し過ぎると、それに合わせて財政支出を増やさないと追いつかなくなります。そこで財政支出を増やすと、また「円の価値が下がるぞ」と思われてやはり円が売られて円安インフレが悪化します。