株式レポート
10月2日 18時0分
マネックス証券

投資の日に思うこと - 広木隆「ストラテジーレポート」

10月4日は「投資の日」だそうだ。10(トウ)と4(シ)で「投資の日」という語呂合わせ。筆者が隔週で出演している「ストックボイス」という番組がある。番組は東証アローズから生中継しているのだが、スタジオに行くと、「とうしくん」なる「ゆるキャラ」のポスターがあった。



「なに、これ?」と筆者が尋ねると、「え?広木さん、知らないんですか?『証券知識普及プロジェクト』のマスコット・キャラクター『とうしくん』じゃないですか。」と呆れられた。

「『証券知識普及プロジェクト』って何?」

「広木さん、本当に証券会社の人ですか?『証券知識普及プロジェクト』というのはですね、日本証券業協会や東京証券取引所グループなどの8団体が参加する証券業界の啓蒙活動ですよ。学校へ学習教材を提供したり、一般向けのセミナー開催など証券知識の普及・啓発活動を推進しているんです。その活動の一環として、10月4日を「投資の日」と定めて、この日を中心に全国各地でセミナーや講演会のイベントを行います。多くの人に証券市場に関心を持っていただくために、堅い講演一辺倒ではなく、お笑い芸人さんも参加するトークショーなんかも企画されてるんですよ。」

「ふーん…。まあ、相場も冴えないし、そういう企画でもやってもらわんと、俺たち証券マンはこの先、食いっぱぐれちまうからな。まあ、いいんじゃないの。」

「なんて投げやりな!相場のてこ入れとか、そんな営利目的じゃないんですよ、あくまで証券知識の普及を目的にですね…」

「ああ、分かった、分かった。でも、そんな、ふぬけた牛のキャラやお笑い芸人で、客は来るのかな。綺麗どころは呼ばないの?」

「日本の近代資本主義ゆかりの場所を巡るバスツアー『104(とうし)バスツアー』はタレントの石井寛子さんが案内してくれます。」

「おおっ!スゲー可愛いじゃん。俺、これに参加するよ!」

「残念でした。もう受付終了です。○○証券の××さんやタレントの北陽さんらが参加する例のトークショーならまだ受付中ですけど。」

「そんなの、誰が行くか!」

証券知識の普及・啓発は大いに結構である。しかし、「笛吹けど踊らず」の感は禁じ得ない。「貯蓄から投資へ」は完全に掛け声倒れになっている。「貯蓄から投資へ」をスローガンに掲げて政府・当局が推進してきた個人マネーを株式市場へ呼び込もうとする企画は残念ならが奏功しているとは言えない。9月26日付け日経新聞のコラム『大機小機』は「『貯蓄から投資』を再考する」というタイトルで、その現状をこう述べている。

<10月4日の「投資の日」を前に、業界では証券投資の盛り上げに力が入っている。金融当局も「経済の発展、企業の成長を支える株式投資などのリスクマネーの供給が金融にとっての重要な使命」だとして、「貯蓄から投資へ」を旗印に政策を進めてきた。しかし、株式市場の現状は、その思いにはほど遠い。>

コラムの執筆者「陰陽」氏は、海外株に比べて著しく出遅れているわが国の株価低迷を嘆き、投資信託の市場においても日本株を投資対象とするファンドの不人気ぶりを嘆く。それは無理もない。「個人投資家が株式投資に消極的な理由は、リスクに耐えて投資を続ければ、見合うだけのリターンが期待できると実感できないからであろう」との指摘はまさに正鵠を射ている。一言で言えば、「儲からないから、やらない」、これに尽きる。拙書『ストラテジストにさよならを』では、前半の第1部を「なぜ株は儲からなかったのか?」と題して丸々この点に関しての考察に充てている。興味のある方はぜひご一読下さい。

証券知識の普及・啓発は大いに結構と述べたが、個人投資家に知識を授け、啓発すれば株式投資が活性化するという考えが背景にあるならそれは間違っている。個人投資家ひとりひとりは、金融に関する知識やリテラシー(使いこなせる能力)に格差はあるが、「個人」全体としては正しい投資判断・投資行動を行うものだ。

今から22年前、1990年秋のことである。当時、筆者が勤務する銀行系投資顧問会社のオフィスは大手町のサンケイビルにあった。東京駅で電車を降りて、オフィスに向かう道は、都銀、信託銀行、長信銀の本支店がずらりと軒を並べる金融街。そこに早朝から多くのひとびとが長蛇の列を作っていた。「すわ、取り付け騒ぎか?」と肝をつぶしたものである。実は信託銀行の金融商品「ビッグ」や長信銀の「ワイド」などの金融債を買い求めるひとびとが並んでいたのである。ビッグとは、収益満期受取型貸付信託の愛称。ワイドは、利子一括払い型利付金融債の愛称で、発行体ごとに「リッキー」「リッチョー」「リッシン」などさらに愛称がついていた(というか、より正確には「ついている」と現在形にすべきだ。長銀の「リッチョー」は新生銀行に、日債銀の「リッシン」はあおぞら銀行にそれぞれ引き継がれて販売されている。興銀の「リッキー」はみずほ銀行が引き継いだが、すでに新規販売は中止されている。)当時、5年物で利回りはともに9%を超えていた。

なにしろ1990年の秋は金利のピーク。10年物国債利回りが8%を超えていた時代である。金利がピークと見た個人は、郵便局の定額貯金で10年にわたる高金利を確保したうえで、限度額1000万円を超える部分はビッグ・ワイドに殺到したのである。さらに言えば、変動金利のビッグより固定金利のワイドが人気化した。これこそ、まさに「利に聡い」投資行動の現れである。1989年末に日経平均は38,915円の最高値を打ち、以降長期にわたって低迷が続く。株など買わずに1990年の高金利で5年10年、複利で運用することを選択した個人は「大正解」だった。個人ひとりひとりの金融リテラシーに差はあっても、「個人」全体では正しい投資行動を選択するというのは、まさにこういうことである。

日頃から大変お世話になっている日経新聞・編集委員の北沢千秋さんが興味深いレポートを書かれている(「投資のグローバル化と空洞化」10月2日付け日経新聞『一目均衡』)。そのコラムの冒頭ではこういう話が紹介されている。某大手証券では8月の外国株の委託売買手数料が初めて日本株の収入と肩を並べたというのだ。「アップルやグーグルなど日本人にもなじみのある銘柄が勢いよく上昇し、投資家は買いの回転が効いている」という。北沢さんはこう述べている。「個人投資家の日本株離れは新たな段階に入ったようだ。日本株の持ち高を減らしたり投資を中断したりするだけでなく、世界の株式市場に注目する投資家が増えている。」

投資家の知識不足で日本株式市場が盛り上がらないわけではない。株に魅力がないと感じれば金利物にお金を預けておく。日本がだめなら海外へ投資する。個人投資家はこの失われた20年、ずっと正しい投資判断をしてきたのである。日本株投資が活気に乏しいのは、単に日本株に魅力がないせいである。北沢さんはこうコラムを結んでいる。「多くの個人投資家には、今の日本株は見返りの乏しい投資対象と映るのではないか。さらなる空洞化を避けるには、日本株投資の動機を再び醸成する必要がある。

 リスク相応のリターンを提供できる企業の収益力や株主配分の強化、個人の資産形成を経済の成長マネーとして活用する枠組みづくり、リスクマネーに優しい税政のあり方…。市場に関わる人々が取り組むべき課題は山ほどある。」

お笑い芸人やタレントのトークショーもいいが、抜本的なことをもっと積極的に政府・当局に働きかけていくべきではないか。そのひとつが和製ヘッジファンドの隆盛を図るというものだと筆者は考える。日本国内で活躍するヘッジファンドは極めて少ない。これは税制の問題というより、規制、制度の問題である。端的に言えば、もっと規制緩和をしてごく簡単にファンドが作れたら、自分でヘッジファンドを作って運用したいというプレーヤーがぞくぞくと出てくると思う。AIJ問題やジャパン・アドバイザイリー問題などで、いまやこの手の議論は規制緩和とは正反対の規制強化の動き一辺倒である。しかし、それは極めて安直な議論である。このほど決まった厚生年金基金廃止と同じく、まともな議論がなされていないと思う。AIJ問題は悪質な詐欺と監督不足、ジャパン・アドバイザイリー問題はインサイダー情報の悪用という犯罪行為と証券会社のモラルの問題であって、ヘッジファンドがいけない、という問題ではまったくない。自由にリスクをとって市場で大胆に運用するプレーヤーをもっと増やさない限り、市場は活性化しない。逆にそういうエッジの効いた運用をする市場参加者が増えてくれば市場の流動性も増すし、個別の値動きもよくなってくるだろう。リスクをとって勝負しようという個人投資家の追随も入るだろう。

とにかく多種多様な参加者を増やすことだ。みんなが同じ意見だったら値段がつかない。同じ値段を見て、売りだ、と思う人がいるから買いが成り立つ。逆の考えの人がいるから値段がつくのがマーケット。マーケットをもっともっと健全で魅力のあるものするには、とくにかく参加者を増やすことだ。誰もが考え方は微妙に異なり、みんな同じということはない。その考え方のずれや歪みが多くあること、大きいこと、それが市場の魅力になる。市場の魅力を増やすには多様な参加者を市場に動員すること。そのためには猫の手ならぬ牛の力だって借りてもいいかな。がんばって、「とうしくん」!




(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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(マネックス証券)


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