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辻広雅文 プリズム+one

あの鐘を鳴らすのは誰か-大統領選にみなぎる米国の底力

辻広雅文 [ダイヤモンド社論説委員]
【第9回】 2008年1月17日
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 熾烈極まる米国大統領選を見ていると、2人の故人の言葉を思い出す。

 米国の政界を知り尽くしていた宮澤喜一元首相が、「米国大統領が大統領足りえるのは、あの選挙戦があるからこそでしょうね」と話したことがある。1992年、ビル・クリントン前大統領が彗星のごとく登場、パパ・ブッシュを撃破した、その頃である。

 1月のアイオワ州から始まり11月の本選まで続く長丁場で、立候補から就任までの期間は2年もある。その間、わずかな隙、ひと言の失言も許されない過酷で長い戦いは、大統領としての力量と度量を身に着ける鍛錬の場だと、宮沢元首相は言いたかったのだろう。

 あなたに会えてよかった、あなたには希望の匂いがする――1972年に大ヒットした「あの鐘を鳴らすのはあなた」を作詞した故阿久悠氏から生前、「歌詞のイメージの一つは米大統領選」と聞いた。

 意外だった。この歌は当時の連合赤軍浅間山荘事件などのすさんだ時勢を反映し、ベトナム反戦を内意していると言われていたし、米国は失意に沈み、指導者たる大統領も苦悩に満ちていた頃だ。それでも作詞家は、米国大統領選に希望や信頼の象徴を見出したのか、と不思議な気がしたものだった。

 今は、2人の言葉の意味がよく分かる。民主党のオバマ候補は、「分断を乗り越えて統合を」と呼びかけ、米国民の変革への希望をわしづかみにした。そのオバマ候補にアイオワ州で苦杯を喫したヒラリー候補は、ニューハンプシャー州で奇跡の復活を遂げた。彼らの討論は激烈だが、極めてロジカルであり、激闘を通じて大統領としての資格を磨きあっているようだ。

 あまりにも単純、とりわけ「イラク、アフガン問題」と「環境問題」に思慮を欠いたブッシュ政権の8年間を転換すべく、共和党候補を含めた候補者全員が恐ろしく真剣で、志高く思想を語り、行政手腕に長け、コミュニケーション能力に秀でている。誰もが、あの鐘を鳴らす資格を持っているかのように。
 
 真摯なのは、選ばれる側だけではない。米国民は小学校の頃から、例えば、「道に倒れている人がいます。あなたは、その人が自分の力で立ち上がるべきだと考えますか。それとも、助けてあげますか」と授業で問われ、その理由を議論する経験を積んでいる。共和党的保守と民主党的リベラルの発想を小さな頃から肌身で覚えた有権者が、選別の手を緩めない。変化への渇望を抱え、選ぶ側もまた恐ろしく真剣である。

 米国の「草の根民主主義」の活力を、大統領選を通じてわれわれは見せ付けられている。

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辻広雅文 [ダイヤモンド社論説委員]

1981年ダイヤモンド社入社。週刊ダイヤモンド編集部に配属後、エレクトロニクス、流通などの業界を担当。91年副編集長となり金融分野を担当。01年から04年5月末まで編集長を務める。主な著書に「ドキュメント住専崩壊」(共著)ほか。


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