「社会科学に実験はない」という。自然科学ならば、一定の仮説を立てて、モデルや数式を使い、実験室の中で、様々な結果を比較検証することが可能である。変数をいろいろ変えていくことによって、科学的にその変化を比べていけば、様々な有益な結論が導き出されることが多いだろう。

 しかし、社会科学の分野である現実の政策に、実験的アプローチを行うことは難しい。実験をしなかった場合の状況と、実験の結果生じた現象との比較が難しいうえ、ひとたび悪影響が出ればただちに中止します、というわけにはいかないからだ。

 とりわけ経済政策などに、実験的な政策を導入すると、実験的な政策に沿って行動した人々に不慮の損失や不利益などが生じた場合、国家はそれをどう認定し、損失をどう補てんするのかなども考えておかなければならない。そのようなことを事前に議論することすらはばかられるだろう。

 そこで、社会科学、とりわけ国家の経済政策には、小規模なものを除き、実験的手法はなじまないといわれてきた。

本格的な財政危機に向かう
引き金になるかも知れない

 こんなことを考えるきっかけとなったのは、与野党で特例公債法案の取り扱いを巡る政治ゲームが続いていることからである。

 今年度予算歳入総額90兆円のうち、税収・税外収入部分は46兆円あまり、財政法第4条に基づき発行できる建設国債6兆円弱と合わせて52兆円の財源は確保されるが、残りの部分、つまり歳入の4割強を占める赤字国債38兆円強は、特例公債法が国会で通らないと発行できない。