経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第15回】 2012年10月16日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【井庭崇氏×武田隆氏対談】(後編)
”誤解”が生み出すコラボレーションの秘密

言葉はコミュニケーションのための媒介(メディア)。そして、創造性を誘発するクリエイティブ・メディアのひとつが「パターン・ランゲージ」と呼ばれるものだ。
パターン・ランゲージとは聞き慣れない言葉だが、それの意味するところは興味深い。たとえば、創造的なプレゼンテーションをどうつくるのかというコツをパターン・ランゲージとしてまとめれば、そこで提供されている言葉を使うことでコミュニケーションが容易になるだけでなく、そのコツを実践することでプレゼンテーションをつくることも可能になる。つまり、パターン・ランゲージは、コミュニケーションを支援するとともに、創造も支援するのだ。
前回から続く慶應義塾大学の井庭崇准教授と武田隆氏との対談。この後編では、パターン・ランゲージをオンライン・コミュニティに応用する可能性について語り合う。

誤解も含めて「コミュニケーション」は成立する

武田 井庭先生が創造システムを考える際に依拠しているのは、社会学者ニクラス・ルーマンの理論ですよね。僕はもっぱらマーシャル・マクルーハンだったので、ルーマンのメディア論を井庭先生から教えて頂いたときは、メディアを捉える視点に高低があることに驚きました。1968年にイームズがつくった9分の映画「Powers of ten」の、空に昇って行く視点と身体に入って行く視点のような……。俯瞰に向かうのがマクルーハンで、具体の構造に入るのがルーマンです。

 ところで、ルーマンはコミュニケーションをどのように捉えていたのでしょうか?

井庭 崇(いば・たかし)
慶應義塾大学総合政策学部准教授。1974年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学総合政策学部専任講師、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院 Center for Collective Intelligence 客員研究員等を経て、現職。著書に『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(共著、NTT出版、1998年)、『社会システム理論 :不透明な社会を捉える知の技法』(編著、慶應義塾大学出版会、2011年)等。

井庭 ルーマンの社会システム理論によれば、コミュニケーションは、複数の人の間で起きる「現象」です。日常的には、「コミュニケーションをする・とる・行う」という感じで、コミュニケーションは、ある人の意図的な「行為」のようなものだと考えられていますよね。ルーマンはそうではなく、コミュニケーションは複数人の、例えば二人の間で「生じる」現象だと捉えます。

武田 通常、私たちが「コミュニケーションが成立した」と感じるのは、こちらの意図していることが相手に伝わったときです。本人の意図とは関係なく、コミュニケーションが発生するというのはどういうことでしょうか?

井庭 そのことを理解するためには、コミュニケーションに参加する人の側の視点ではなく、コミュニケーションの側から世界を眺めることが必要です。コミュニケーションはどういうときに生じるのか、という観点から世界を眺めるという視点の転換です。

 例えば、今日、武田さんは緑のネクタイをしていますよね。それを見て僕は「前に僕が『緑が好きだ』と言っていたのを武田さんは覚えていて、このネクタイにしてくれたんだ。さすがだな!」と受け取ったとします。武田さんが本当にそう考えてネクタイを選んだのかどうかは、ここでは問題ではありません。僕が武田さんを見てそのように解釈したとしたら、そこには、ひとつのコミュニケーションが生まれていることになります。「ある情報」が、「ある意図をもって伝達された」と「理解」されたときに生じるのが、「コミュニケーション」なのです。相手が本当にそう思っていたかどうかは、別の話です。

武田 それが誤解でも、ということですね。逆に、私は井庭先生がネクタイを見ていることに気がついて、「ああ、もしかして、この柄がおしゃれじゃないって思われているのかな……」と受け取ったら、そこにもコミュニケーションが生まれたことになるんですね。

井庭 そうです(笑)。その場合、僕の考えていることとは異なるので、いわゆる「誤解」ということになるのですが、それでも、そのようなコミュニケーションは発生するわけです。そう考えると、コミュニケーションによって何かが伝わっているというのは、いわば幻想だということができます。

 そもそも、各人の心のなかの意識は、自分の外には出ていったりはしません。つまり、心のなかで考えたことがコミュニケーションに乗って、相手に届くなんていう「通信」のようなことは起きないんです。実際に起きているのは、お互いが相手の提示した(であろう)情報と、その意図を自分の解釈で捉えて、コミュニケーションが生じてしまう、ということです。そう考えると、誤解というものも、例外的なことではなく、むしろとても自然なことなのだといえます。

 このように、意図せざるとも生じてしまうコミュニケーションが、社会をつくっていると、ルーマンは考えました。彼は、社会の要素は、コミュニケーションだ、といいます。コミュニケーションが次のコミュニケーションを生み出していく。そういう一瞬の出来事の連鎖が社会である、と捉えたわけです。

 そのとき、自分の心のなかで考えていることと、社会におけるコミュニケーションは、まったく別々の動きをするのかというと、実はゆるやかに連動していることがわかる。その心的システムと社会システムをシンクロさせるのが“言葉”なんです。言語があるから、僕らはお互いの心を覗くことはできないにもかかわらず、考えをすり合わせたり、一緒に何かをやったりすることができるようになります。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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