ベトナム 2012年10月15日

「定価」の概念が薄い国・ベトナム
値段交渉の苦労がある反面、実は得することも多い!

日本で15年間の編集者生活を送った後、ベトナムに渡って起業した中安記者が、「定価」から見えるベトナム事情についてレポートします。

バイクタクシーのオヤジが代金をまけてくれた!

 「困ったなあ、小銭がないんだよ」

 セオムに料金を払おうとして困ってしまった。「セオム」とは、バイクの後部座席に客を乗せて運ぶバイクタクシーのこと。ベトナム語ではXe om。Xeが「車両」のことで、omが「抱く」の意味なので、直訳すると「抱きバイク」。後ろに乗った人が運転手を抱くような形になることから、こういう名称になったらしい。

 私は、普段は自分のバイクで通勤しているのだが、バイクが故障してしまった妻にバイクをとられてしまい、今日はセオムで出勤となったのだ。自宅から会社まで、交渉の結果、2万5000ドン(約90円)で乗せてもらうことになった。そして会社に着いてお金を払おうとしたら、小額紙幣を全部合わせても2万ドン(約75円)しかなく、それ以外には50万ドン(約1800円)札が1枚あるきり。50万ドンはベトナムでの最高額紙幣で、セオムのおじさんは当然、そんな大金のお釣りなど持っていない。ところがおじさんは、「そうか、これしかないのか。今日は2万ドンにまけといてやるよ」。そう言って笑顔と共に走り去った。

売り手と買い手の人間関係によって値段は変動するもの

 ベトナムは「定価」という概念が、日本に比べて薄い国である。値段は交渉で決まることが少なくない。値段交渉が必要なのは外国人だけではなく、もちろんベトナム人も同様で、いろんな場面で値段交渉をしている。セオムも、普通はメーターなどついていないから運賃は交渉制だ。ベトナムに来た当初は、土地勘も相場観もないから値段交渉には私も苦労した。「どうしてきちんとした料金体系がないのだろう」と嘆いたものだ。しかし慣れてくると、実は思っている以上に合理的であることが分かってきた。

 例えば昼間と夜だと、夜の方が高い。なぜなら運転が難しいから。郊外から中心部に行くより、中心部から郊外に行くほうが高い。なぜなら帰りは空身で帰って来なければいけない可能性が高いから。大きな荷物を持っていると、それもやはり高くなる。

 そして値段を決める要素の中で、忘れてはならないのが「親近感」だ。私がまだ旅行者としてベトナムに通っていた15年ほど前、ホーチミン市内でいちばん大きなベンタン市場へ買い物に行き、仲良くなったお店の人に、「日本ではすべての商品にちゃんと値段がついているから安心して買い物ができるんだよ。どうして定価をつけないの?」と尋ねたことがある。

 するとその土産物屋のおじさんは不思議そうな顔をして、「お前は、自分の親友でも、見ず知らずの他人でも、同じ金額で売るのか? そっちのほうこそ変じゃないか?」と聞き返してきたのだ。確かにそう言われると、「自分に近しい人ほど安く、遠い人ほど高く売る」という、おじさんの言い分のほうが正しい気がしてくる。

1914年に建てられたベンタン市場。中に入っている店舗数は約1500軒、5000人を超える人が働き、毎日数万人の買い物客が訪れる巨大市場だ【撮影/中安昭人】
ベンタン市場の中は衣料品、生鮮食料品、生活雑貨まで、品揃えは幅広い。観光名所になっているが、地元の人も買い物に訪れる。最近は「定価」を表示するお店が増えているが、交渉次第で値引きは可能だ【撮影/中安昭人】

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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