感動体験が幸福感をよぶ

 今の世の中にはモノがあふれています。便利な製品やサービスが次々と紹介され、広告を見てはこういったモノやサービスを購入して日々のストレスを解消する、という生活スタイルが幅をきかせています。

 しかし今後も収入格差は否応なく広がっていくなかで、自分の生活を自分の意志で取捨選択し、仕事や家庭生活そのものをより充実させていくことで、収入にかかわらず幸福を十分に堪能できる人が日本にも静かに増えてきています。

 この傾向は、優れたNPOが大切にする価値観と相性が良いのです。偉大なNPOは参加する人を資源として活用するだけでなく、彼らに「感動を与えるような体験」を提供し、共通の価値観を持つコミュニティに統合していきます。

 こうした組織で有意義な体験をして、その影響力に納得した人は、その組織の大義を周囲に説いてまわる可能性が高くなる。(中略)私たちが話を聞いたとき、理事や職員はもちろん、活動の参加者や会員、ボランティアでさえ、自分自身の語るべき物語を持っていた。(第4章「熱烈な支持者を育てる」139ページ)

 みなさんは、今働いている組織について、この人たちのように目を輝かせて語れる物語をお持ちでしょうか。仕事でも家庭でも熱く語れるストーリーがある人は、きっと幸せな人生を歩んでおられることと思います。

幸福をよぶ組織が活躍できるために

 最後に、偉大なNPOが日本に育ちにくい大きな要因の一つとして、寄付文化の欠如があることを指摘しておきたいと思います。

 先にも少し触れましたが、日本には独特のムラ社会的な古い慣習が残っていて、それが、寄付文化が根付かない要因の一つだと考えています。日本人は情に厚く親切だと言われますが、それは仲間とみなす場合だけにあてはまります。一般に、格差の指標であるジニ係数が高い場合――つまり格差の大きい社会では、富める者が貧しい者を支えるのが義務である、という考えを持つ人が多くなる傾向があります。

 しかし、日本の場合は、ジニ係数が比較的高いにもかかわらず、貧困救済は国の責任ではないと思っている日本人が多いという、日本の特殊性を指摘する調査結果があります(『競争と公平感』大竹文雄)。