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円高の根本要因は変わるか〜金融緩和を強化する日銀〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

10月12日レポート「円高に苦しみ続ける理由〜日本自身の問題〜」に対して多くのフィードバックを頂戴した。日々の海外からのニュースで円高が進み、また「リスクオフで円高が起きる」など本質とかけ離れた相場解説が蔓延しているためか、デフレ(=貨幣価値の上昇)が長期化するとの予想で円高が進むメカニズムについて、幅広く認識されていないようである。

一方、貨幣価値上昇というモノとマネーの相対価格の変化が、デフレと円高を招くことに対してご理解いただけない方から、例えば「日本は構造的にデフレスパイラルに陥っている」という批判的なご意見を頂いている。「企業は人件費の安い外国に拠点を移し、コスト削減を進め、コストを落した製品を逆輸入し安く供給する」という、企業行動(=構造?)が続くため、デフレは止まらないというご見解である。

洋服など身の回りのモノの値段がずっと下がっており、それを実現する企業行動が起きているのは事実である。そうした企業のビジネスが、モノの価格下落をもたらす事象は分かり易い。ただ、そうしたビジネスは日本企業の専売特許ではない。企業はグローバルに競争しているのだから、米欧の海外企業も同様のビジネスを行っている。そうした企業行動が、日本だけで起きているデフレを説明できるという考えを、筆者は理解できない。

8月29日レポートでもご紹介したが、デフレとは経済全体でモノやサービスの価格全般(一般物価)が下がり続けることである。身近なモノの価格が下がる事象だけでみると、ヒトの価値である賃金を含めて、「一般物価」が下がるデフレの本質まで辿りつかない。長期のデフレという経済現象は、貨幣(マネー)そしてそれを独占的に供給する中央銀行の行動が大きく影響するが、それが経済学の世界でほぼコンセンサスである。

さて、昨日(10月18日)日経新聞トップ記事で「日銀、追加緩和検討へ」が、NY時間で報じられ、為替市場でそれ以降円安への思惑が高まっている(グラフ参照)。10月5日レポートで説明したが、9月にECB、FRBの金融緩和強化に後押しされた日銀だが、実際には金融緩和を強化する手段はいくらでも残っている。このため、同レポートでは10月末に日銀が金融緩和を行うと予想したが、ようやくこの認識が市場で広がり始めている。


具体的には長期国債購入額を増やせるし、前回見送ったETFやREITの購入を増やせる。また、購入対象に外国債券を追加する手段もある。そして、米FRBのように期限を示さず、「デフレから抜け出すまで」金融緩和強化を制限なく続ける姿勢を示すことができる。更に、+1%という他国より低いインフレ目標を通常の国と同様に引き上げることができる。政府が掲げる名目成長3%、実質成長2%と整合的な消費者物価上昇率は、+1%ではなく+2%に近くそれが自然な物価目標である。

こうした見方は、筆者だけが述べているわけではない。元財務官の黒田東彦アジア開発銀行総裁は、「リーマン・ショック後に米欧は強力に金融緩和してきたが、日銀はまだそれほどやっていない」「緩和する手段は山のようにある」(日経新聞10月9日)と言及している。

10月30日にはこれらの金融緩和強化策のうち、長期国債そしてETF・REITの買い入れ増額が実現すると予想される。そして追加金融緩和を行った後も、脱デフレの目標実現を求める政治的要請は一段と強まる展開が想定できる。自民党総裁になった安倍氏が、望ましいインフレ率に言及するなど、日銀の金融政策を取り巻く環境が変わっている。日銀の行動が変わり脱デフレの時期が早まるとの期待が高まれば、日本自身の問題である「円高の根本要因」は薄れることになる。




(チーフ・エコノミスト 村上尚己)

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