ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
新聞・週刊誌「三面記事」を読み解く

オウム特別手配犯――、菊地直子の恋
愛の前に罪は消えるのか

降旗 学 [ノンフィクションライター]
【第7回】 2012年10月26日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

 彼女が進学した大学が大阪教育大学と聞いて、かつての同級生らは首を傾げたという。誰もが、彼女の成績を東大、京大レベルだと思っていたからだ。周囲にはそれほどの才女だったとの印象が強い。

 性格は真面目でおとなしめ。だが、スリムで可愛いとの評判で、男子学生が“彼女にしたいランキング”を募れば、常に上位三位に名前を連ねる人気者でもあった。

 陸上部に所属していたが、痛めた足の治療でヨガを始めたことで彼女の人生は一転する。ヨガ教室は、彼女にある教団への入信を勧める。それが、オウム真理教だった。

 彼女の名前は、菊地直子。のちに“走る爆弾娘”と称された特別手配犯だ。

 この狂気の教団で、菊地は“エーネッヤカ・ダーヴァナ・パンニャッター”のホーリーネームを授かっていた。カモシカのように走る女、という意味になるらしい。オウム真理教は、組織内に“省庁”を設け、菊地は厚生省に配置されていた。

 日本のみならず世界中を震撼させたあのサリンを精製するため、厚生省所属の菊地は、試薬や実験機器の購入を担当した。また、東京都庁で起きた郵便物爆破事件や新宿駅での青酸ガス事件の原料調達にも“奔走”したとされている。オウムの陸上部として大阪国際マラソンに出場するなど、まさに走る爆弾娘だった。

 一九九五(平成七)年五月一六日、教祖の麻原彰晃こと松本智津夫(死刑囚)の身柄が確保、逮捕されるや否や、地下鉄サリン事件をはじめ一連の犯罪に関与した教団幹部らはいっせいに逃走を図った。警察庁が“特別指名手配”にした信者の数は一九人にものぼった。

 一九人もの“特別”手配犯を出した組織が、オウム真理教なのである。
  そして、菊地直子は、特別手配犯では唯一の女性だった。

 だが、一九九六年十二月に沖縄県石垣島に潜伏していた林泰男(死刑囚)の逮捕を最後に、残る三人――、平田信、高橋克也、菊地直子らの足取りは、ぱったりと途絶えた。菊地はフィリピンに潜伏しているとの噂も流れた。やがて捜査規模も縮小され、捜査員は捜査共助課の専従班六人のみにまで減少していた。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

降旗 学[ノンフィクションライター]

ふりはた・まなぶ/1964年、新潟県生まれ。'87年、神奈川大学法学部卒。英国アストン大学留学。'96年、小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。主な著書に『残酷な楽園』(小学館)、『敵手』(講談社)、『世界は仕事で満ちている』(日経BP社)他。


新聞・週刊誌「三面記事」を読み解く

三面記事は、社会の出来事を写し出す鏡のような空間であり、いつ私たちに起きてもおかしくはない事件、問題が取り上げられる。煩瑣なトピックとゴシップで紙面が埋まったことから、かつては格下に扱われていた三面記事も、いまでは社会面と呼ばれ、総合面にはない切り口で綴られるようになった。私たちの日常に近い三面記事を読み解くことで、私たちの生活と未来を考える。

「新聞・週刊誌「三面記事」を読み解く」

⇒バックナンバー一覧