この数ヵ月、竹島問題を通じて、韓国と日本の関係が急激にクローズアップされてきた。韓国は日本にとって、近くて遠い国だ。文化的にも人種的にも深い関係があるのに、市民どうしが互いに「よく知っている」と言える関係にはない。まずは、食べることから、韓国の現在に思いを馳せてみよう。

在日韓国人が作る“本場”の韓国料理や、日本で独自の発展を遂げる韓国風料理、あるいは韓国系移民がカナダなどの移民先で展開している“日本料理”を食することで、文化における日韓の国境は、もはや混じり合って崩れていることを実感できるはずだ。

「これが、寿司?」
カナダでの「日式」寿司との出会い

在日韓国人、日本料理店を営む韓国系移民の本音は?<br />舌と胃袋から考える日韓関係カナダ・バンクーバー市内の日本料理店の巻き寿司。シャリは甘く、上部は鰻の蒲焼きのタレでデコレーションされている
Photo by Yoshiko Miwa

 2012年2月のことである。私は、取材のために訪れていたカナダ・バンクーバー市で、ラーメンも鰻丼も寿司も扱っている大衆的な日本料理店に入ってみた。そして、サーモンの巻き寿司を注文した。程なく出てきた美味しそうな巻き寿司を口に運んだところ、見た目のイメージを全く裏切る味に驚いた。安物のアズキ餡のように甘ったるくベタベタした食感のシャリ。皿に添えられているワサビは、まるでデコレーションケーキのクリームのような形状だ(注)。巻き寿司の上には、美しく茶色の線条が描かれているのだが、それは鰻のタレである。ゼイタクはしたくなかったが、あまりにも甘ったるい味に閉口した私は、ミネラルウォーターを頼んでしまった。

(注)
後に、近くのスーパーマーケットで「ワサビ・デコレーション」の理由が判明した。マヨネーズのチューブと同様の容器に入った練りワサビが、スーパーで販売されていたのである。

 目を上げると、40代と思われる東洋系のお母さんが、カウンターの中から、やや不安そうな表情でこちらを見ている。私は

「ごちそうさまでした」

 と日本語で挨拶してみた。すると、

「I can't understand Japanese」

 という返事が返ってきた。えっ? 日本料理のお店なのに?

 日本人と見分けのつかないお母さんに話を聞いてみると、韓国からの移民であった。そこで私は納得した。たぶん、あの不思議な寿司は、「日式(イルシク)料理」だろう。韓国には、日本から伝わった料理を、韓国人の口に合うようにアレンジした料理があり、日本人には何とも受け入れがたい味であると聞いている。

 しばらく、お母さんのカタコトの英語と、私の下手な英語での会話が続いた。お母さんは、

「日本人は韓国料理が好きで、ナムルやチヂミやクッパは家庭料理のメニューとして定着していますよ。韓国料理の調味料やキムチは、普通のスーパーマーケットで売られています」

 という私の話に驚き、

「なぜ? 誰が持ち込むの?」

 と質問した。