経済活動にあって、何がボトルネック(主要な制約要因)となるかは、時代とともに変化する。

 例えば、かつてリカードは、土地が生産の究極的な制約要因で、地主が地代を得て潤う経済を描いた。これは、特にバブルの時期の日本人にはリアリティのある話だった。東京が国際金融都市として成長し、オフィススペースが足りなくなるという話がまことしやかに語られた時代もあった。また、国土が狭い日本の土地は特別に貴重であり、土地の価格は下がらないのだという「土地神話」を信じていた人が大勢いた。プロの運用者の中にさえ、バブル時代に背伸びして住宅を買った人が大勢いる。

 しかし、今では、将来の日本の人口減を見て、住宅が余ることを心配する向きが増えた。また、複数のビジネスの舞台がインターネット空間に移り、土地の制約が減り、「立地」の意味が変わった。

 マルクスが描いたのは、資本として所有される工場のような「生産手段」が生産活動のボトルネックとなる世界だった。この世界では、資本家が広範囲な労働者を「搾取」することができた。

 しかし、今や、生産手段がビジネスの決定的な制約要因とならないケースが増えてきた。

 この変化は、ネット絡みのビジネスだけでなく、製造業にも及んでいる。クリス・アンダーソンの新刊『MAKERS』(関美和訳、NHK出版)を読むと、設計データのデジタル化と、製造工程の標準化・汎用化を通じて、大量生産品でない商品でもほどほどにローコストで誰でも生産できる世界が成長しつつあることがわかる。CADソフトのデータの形で設計ファイルを持ち込むと、3Dプリンタなどの標準化されたツールを使って多品種・適量生産が可能だ。アイデアを持っている人が、生産設備を自分で持たずとも、製品を世に問うことができるのだ。

 この世界では、ネットに形成されたコミュニティが世界から才能ある人の貢献を集めて商品の設計すらオープンに行う。研究・開発のコストと時間のボトルネックも解消される場合がある。