カンボジア 2012年10月30日

隣国に消える「メイド・イン・カンボジア」
世界一のコショウ、"カンボジア産"で復活めざす

朝日新聞のマニラ支局長などを経て2009年に単身カンボジアに移住、現地のフリーペーパー編集長を務めた木村文記者が、カンボジアの農産品輸出の現状についてレポートします。

実は世界で13番目のコショウ生産国

 カンボジアは、かつて世界でも有数の高級コショウの産地だった。

 と言っても、にわかには信じてもらえないかもしれない。今、市販品の中で「カンボジア産」と明記されたコショウを見つけるのは、難しいからだ。

コショウの実。カンボジアでは、乾燥させる前の新鮮な青い実を、肉や魚介類と一緒に炒め物などにして食べる。産地でしか味わえない贅沢だ=コッコン州で【撮影/木村文】

 カンボジアのコショウ栽培は700年の歴史を持つといわれる。自然環境がコショウ栽培に適しており、20世紀前半には、カンボジア南部カンポット州産のコショウを中心に、香り高い高級コショウとして世界市場に年間約8000トンが出回っていたとされる。

 その伝統を途切れさせたのは、1970年代からの内戦だった。内戦後、1990年代後半になってからコショウ生産は再開されたが、そのときにはもう「カンボジア産高級コショウ」というブランドは世界市場から消えていた。栽培技術もなく、出荷ルートも市場も失い、カンボジアのコショウ生産は、ゼロからのやり直しとなってしまったのだ。

 現在、カンボジアでは毎年4500トン余りのコショウが出荷されているといわれる。2010年のデータだが、コショウ業界の国際組織「国際コショウ共同体(IPC)」によると、世界のコショウ生産量は約32万トン。世界で最も生産量が多いのはベトナムで9万5000トン。続いて、インドネシア5万9000トン、インド5万トン、ブラジル3万4000トンなどとなっている。このデータによると、カンボジアは年間4500トンを出荷しており、世界で13番目のコショウ生産国だ。

 カンボジア国内でコショウの栽培面積が最も広いのは、中部コンポンチャム州で約520ヘクタール。続いて南西部コッコン州の191ヘクタール、ベトナムと国境を接する東部クラティエ州の26ヘクタールなどとなっている。

 ところが、カンボジアのコショウ生産の実態は「謎」に包まれている。

 かつては世界に名を知られた高級農産品だったのに、生産者の全国組織はこれまでなかった。最近になって、ようやく結成に向けた動きが始まったところだ。そのため生産や流通の実態がつかめず、果たしてカンボジアのコショウがどこでどう売られているのか、はよく分かっていない。

 たとえば、栽培面積が最も広いコンポンチャム州の生産量は、カンボジア全体の9割以上を占めるとみられるが、多くは仲買人を通して「非公式なルート」で隣国タイへ運ばれてしまう。コンポンチャム州のあるコショウ農家は「3ヘクタールの畑で、6トンの収穫があったが、すべてタイの業者に卸した」と、証言する。国内から「カンボジア産」として輸出する流通経路が、ほとんどないからだ。

 この実態を裏付けるような統計がある。カンボジア政府の統計によると、2010年のコショウ輸出量は6トンで、フランスや日本を含む11カ国に輸出されているが、この中にタイは含まれていない。一方で、タイ側の統計では、同年にカンボジアから100トンが輸入されている。タイへと渡ったコショウは、「カンボジア産」と銘打たれることもなく、世界市場へと出ている可能性が高い。

ようやく始まったコショウ生産者や販売業者の全国組織づくり。だが、それぞれの思惑があり、足並みはなかなかそろわない【撮影/木村文】

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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