「どこで拾ったの?」

「ゴミ箱です。ゴミ箱が倒れて散らかった書類の中に、混じってました」

「シュレッダーにもかけないで、このままの状態で捨ててあったってことか――」

 猪木は小さく悪態をついた。だが、すぐに気を取り直して言った。

「君に拾ってもらって助かったよ。こうして回収できたからね。あの店長には決算書がトップシークレットだってことがわかっていないんだ。君はわかっていると思うけど」

「もちろんです」

 ヒカリは大きくうなずいたものの、後学のために、来る途中のコンビニでひそかに書類のコピーをとっておいたことは黙っていた。

「じゃあ聞くけど、赤字ってなんなの?」

「売上高から費用を引いた差額がマイナスってことです。そんなこと、会計を勉強した人なら誰でも知ってます」

「じゃあ、赤字になると、何が問題なの?」

 ヒカリは戸惑った。そこまで考えたことがなかったからだ。とはいえ、答えはすぐに浮かんだ。

「赤字になると、入ってくるお金よりも出ていくお金が多くなるので、いずれお金が足りなくなって、会社が潰れてしまうかもしれません」

 新聞でもテレビでも、有名会社が赤字になると大変だと書き立てる。つまり、赤字は会社が潰れかかっていることの警鐘だと、ヒカリは考えた。

「少しは勉強してるようだね。あの店は客の入りが少ないのに、アルバイトが多すぎるんだよ。売上と比べて人件費が高すぎるから利益が出ない。本部からの持ち出しでなんとか潰れないでいるだけだ」

 そういうことだったんだ。

 ヒカリは納得した。だからアルバイトを減らそうとしているのだ。

「学生の君に自慢してもしょうがないけど、ボクはロミーズの社長から特命で再建をまかされている。お遊びじゃない。毎日が緊張の連続でね。悪いが、君にかまっている時間はないんだ」

 猪木は「赤字のことは誰にも言ってはいけないよ」と言い残して、スーツの上着を着て部屋から出て行った。

(次回は11月12日更新予定です)


【セミナー概要】
日 時: 2012年11月21日(水)
             19時開演(18時30分開場)20時30分終了予定
会 場: 東京・原宿 ダイヤモンド社9階 セミナールーム
住 所: 東京都渋谷区神宮前6-12-17
料 金: 入場無料(事前登録制)
※今回、セミナーテキストとして、書籍『50円のコスト削減と100円の値上げでは、どちらが儲かるか?』を使用しますので、ご来場時に必ずお持ちになって下さい(当日会場でも販売いたします)。
定 員: 60名(先着順)
主 催: ダイヤモンド社
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