橘玲の日々刻々 2012年10月21日

[橘玲の日々刻々]
『週刊朝日』はいったい何を謝罪したのか?

前回のエントリーをアップした後、『週刊朝日』編集部と著者である佐野眞一氏のコメントが公表された。私の意見にはなんの変更もないが、『週刊朝日』編集部の正式な見解が次号に掲載されるというから、その前に論旨をもういちどまとめておきたい。

・『週刊朝日』に掲載された佐野眞一氏の「ハシシタ 奴の本性」は、「敵対者を絶対に認めないこの男の非寛容な人格」の秘密を知るために、「橋下徹の両親や、橋下家のルーツについて、できるだけ詳しく調べあげ」るノンフィクションだ。その目的が、出自や血脈(ルーツ)を暴くことで橋下市長を政治的に葬り去ることであるのは、連載の第1回で明快に述べられている。すなわち、佐野氏はこの記事が引き起こすであろう社会的な混乱を含め、すべてを熟知したうえで執筆している。

・『週刊朝日』編集部は、佐野氏のこうした執筆意図に完全に同意したうえで連載を開始した。それは、「ハシシタ 奴の本性」というタイトル(これは佐野氏が提案したのかもしれないが、タイトルの決定権は編集部にある)や、橋下市長の顔写真を前面に出し「橋下徹のDNAをさかのぼり本性をあぶりだす」とのキャッチコピーをつけた表紙、および新聞各紙への大きな宣伝広告を見れば明らかだ。

・この記事に対して橋下市長は、「血脈主義は身分制度の根幹であり、悪い血脈というものを肯定するなら、優生思想、民族浄化思想にも繋がる極めて危険な思想だと僕は考えるが、朝日新聞はどうなのか。アメリカでの人種差別、ヨーロッパにおけるナチス思想に匹敵するくらいの危険な思想だと僕は考える」と延べ、佐野氏の記事がナチスの優生思想そのものだとして、『週刊朝日』を発行する朝日新聞出版と親会社である朝日新聞社を批判した。その結果、『週刊朝日』編集部は謝罪と連載の中止を発表した。

・ところで、佐野眞一氏は連載の開始にあたって、「オレの身元調査までするのか。橋下はそう言って、自分に刃向かう者と見るや生来の攻撃的な本性をむき出しにするかもしれない。そして、いつもの通りツイッターで口汚い言葉を連発しながら、聞き分けのない幼児のようにわめき散らすかもしれない」と書いているように、こうした事態を最初から予想していた。佐野氏にとって橋下市長のTwitterによる攻撃は、「敵対者を絶対に認めないこの男の非寛容な人格」から当然のことで、自分の記事が正しかった証明でしかない。もちろん、佐野氏には記事を訂正するつもりもなければ、橋下市長に対して謝罪するつもりも微塵もないだろう。

・佐野氏は、「記事は『週刊朝日』との共同作品であり、すべての対応は『週刊朝日』側に任せています」「記事中で同和地区を特定したことなど、配慮を欠く部分があったことについては遺憾の意を表します」とコメントしているが、連載を継続するか中止するかは出版社の一方的な判断で、書き手が関与する余地はないのだから、本人の意思にかかわらず『週刊朝日』側に任せるしかない。遺憾の意を表した部分については後でもういちど述べるが、これが橋下市長への謝罪でないのは明らかだ。

・佐野氏の立場になってみれば、自分が「正しいこと」を書いたにもかかわらず出版社の一存で連載が中止されてしまったのだから、残された道は、別の媒体で連載を継続するか、単行本のかたちで作品を完結させて世に問うほかはない。逆にいえば、それができなければ筆を折るしかない――それくらいの覚悟で連載を始めたはずだ。

・このように、橋下市長と佐野氏の立場は真っ向から対立し妥協の余地はないものの、それぞれ一貫している。だが、『週刊朝日』編集部はどうだろうか。

『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル 』

作家・橘玲が贈る、生き残りのための資産運用法!
アベノミクスはその端緒となるのか!? 大胆な金融緩和→国債価格の下落で金利上昇→円安とインフレが進行→国家債務の膨張→財政破綻(国家破産)…。そう遠くない未来に起きるかもしれない日本の"最悪のシナリオ"。その時、私たちはどうなってしまうのか? どうやって資産を生活を守っていくべきなのか? 不確実な未来に対処するため、すべての日本人に向けて書かれた全く新しい資産防衛の処方箋。 

★Amazonでのお求めはコチラをクリック!
★楽天でのお求めはコチラをクリック!

 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

次のページ>> 両者の言い分は?


橘玲の書籍&メルマガのご紹介
世の中(世界)はどんな仕組みで動いているのだろう。そのなかで私たちは、どのように自分や家族の人生を設計(デザイン)していけばいいのだろうか。
経済、社会から国際問題、自己啓発まで、様々な視点から「いまをいかに生きるか」を考えていきます。質問も随時受け付けます。
「世の中の仕組みと人生のデザイン」 詳しくは
こちら!
橘 玲の『世の中の仕組みと人生のデザイン』 『橘玲の中国私論』好評発売中!

バックナンバー

»関連記事一覧を見る

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。