昨年発生したユッケ食中毒を受け、生食用牛肉の新基準が施行され、今年7月から牛のレバ刺しの販売・提供も禁止されるなど、生肉料理の提供に関する規制強化が続いている。一方で、10月からは都条例の改正により、有毒部位を除いて出荷される「身欠(みが)きフグ」の提供が、専門の調理師なしでも可能になるという規制緩和の動きも出始めた。そこで戸惑っているのが、世の食通たちだ。フグ派から「これからは回転寿司や居酒屋で安くフグを食べられる」という喜びの声が出る一方、生肉派からは「毒を持つフグはよくて、なぜレバ刺しがダメなのか」という疑問の声が上がっている。判断基準がよくわからない規制強化と緩和の綱引きに揺れる外食業界。そもそも規制の強化と緩和は、どんな前提で行なわれるのか。そして、消費者が被る影響とはどんなものなのか。(取材・文/プレスラボ・宮崎智之)

フグがぐっと身近な料理になる?
強化と緩和を繰り返す食品規制

「これからは、回転寿司や居酒屋でフグを手軽に食べられるようになりそうだと聞き、期待しています。今までは、専門料理店でフグ刺しやフグ鍋を食べると、5000円から1万円はかかりましたからね……」

 こう語るのは、週に2回は同僚らと居酒屋にくり出すという、40代のビジネスマンである。

 東京都ではこの10月から、フグの有毒部位を除いた「身欠(みが)きフグ」の提供が規制緩和された。フグ料理を提供したい飲食店や魚介類販売店は、専門の調理師なしでも身欠きフグを仕入れ、加工、販売できるようになったのだ。

 それに伴い、フグ市場の勢力図も変わると見られている。フグはこれまで、経験を積んだ調理師を抱える専門料理店以外での提供が難しく、競合店が比較的少ないことから、お客への提供価格は高値で安定してきた。

 外食産業で長引くデフレの影響により、以前よりリーズナブルな価格で提供する店が増えたとはいえ、給料が減り続ける一般庶民にとっては、まだまだ気軽に口にできる食べ物とは言えなかった。

 それが規制緩和されれば、都内でフグ料理を扱う大衆店もぐっと増えるはずだ。忘年会シーズンも近づくなか、一皿数百円の魚介料理を肴にちびちびやるのが好きな“のんべえ”にとっては、朗報だろう。