世界貿易機関(WTO)の多角的通商交渉、ドーハラウンドの閣僚級会合が7月末に決裂したことを受けて、まるでドーハラウンドに終止符が打たれたかのような報道が増え、農業界では少なからぬ数の識者がしたり顔で「日本が(関税引下げの例外として認められる)重要品目での調停案を飲まずに済んだのは幸いだった」と発言しているのには驚かされる。日本は農産物品目数の8%までの重要品目を要求していた。

 結論からいえば、ドーハラウンドは再開されるだろうし、再開されれば、調停案である「重要品目は原則4%、追加の譲歩付きで6%」が白紙に戻ることはありえない。それは、WTOのファルコナー農業交渉議長が「日本の合意は既成事実」と公言していることからも明白だ。

 筆者はかねてよりドーハラウンドが年内に妥結する可能性があることを指摘してきたし、今もその可能性は消えていないとみている。なにより重大な事実は、先の閣僚級会合は妥結の一歩手前まで来ていたということだ。

 最後の最後に、セーフガードメカニズム(特定品目の輸入が急増した際に、自国の生産者を保護するために行なわれる緊急避難的な関税引上げ措置)という、これまであまり議論してこなかった部分で、アメリカと途上国(特にインドと中国)が対立し、限られた時間内に着地点を見出せなかったにすぎない。したがって、ブッシュ大統領がインドと中国の首脳と個別に話し合い、妥協点を探れば済むことだ。
 
 両者の主張に耳を傾ければ、歩み寄れる可能性は非常に高い。

 農業補助金削減の見返りとして、途上国市場へのアクセスという戦利品(議会への説得材料)を求めるアメリカ政府は、セーフガードの発動条件の厳格化を求めている。具体的には、特定品目の輸入量が過去3年間の輸入量に比べて40%以上増加したときのみ輸入制限が発動できるとするWTOラミー事務局長の折衷案を支持している。

 一方、途上国は、米国が提示している農業補助金は多過ぎて、農業補助金付きの安い農産物に対抗するためにはセーフガードメカニズムが重要であり、40%という発動基準ではハードルが高すぎるので飲めないと反発している。