中止すれば「休戦決議」も守れない
困難を克服して日本の素晴らしさを発信

小林 オリンピックを開催する意義ですが、我々があまり認識できていないもので何かほかにありますか?

橋本聖子氏はしもと・せいこ/1964年北海道生まれ。駒澤大学付属苫小牧高校卒業。92年の冬季オリンピックアルベールビル大会のスピードスケートで日本人女子初の冬季五輪銅メダル獲得。95年に自民党公認で参議院議員に初当選。外務副大臣、五輪担当大臣などを経て2月から現職。 Photo by M.K.

橋本 明確なものがあります。すでに2019年の国連総会で世界186カ国の共同提案で「オリンピック休戦決議」が採択されています。オリンピック開幕の7日前から、パラリンピック終幕の7日後まで、59日間は世界が休戦するという決議をしてもらっているんです。

 オリンピック・パラリンピックは「平和の象徴」です。いろいろな世界的イベントがありますが、休戦決議ができているのはオリンピック・パラリンピックだけ。これが価値なんです。ところが、休戦の意義や重さは、お話ししてもメディアはなかなかニュースにしてくれません。

小林 「オリンピックは平和運動だ」という言葉は、ただの掛け声ではないんですね。

橋本 59日間は休戦するわけです。たとえ一時的であっても、戦火に脅えている人々に安らぎを与えられる。その日を楽しみに待っている子どもたちがいます。子どもだけじゃありませんね。すべての人々が安らかに過ごせる。過去には、休戦の間に話し合いをして、戦争が終結した例もあります。これはオリンピックしかできない価値なんです。

小林 もしオリンピックを中止したら、休戦も取りやめになる……。

橋本 世界との約束を果たせなかったとなれば非常に大きな責任だと思います。コロナもある意味では闘いです。危険だからやめるという選択だけでなくて、より早い段階でコロナを抑える、困難なことを逆にやろうとすることで、日本のテクノロジーであったり医学や科学であったり、物質的な文化がものすごく醸成されていきます。

 困難なことをやめるのは誰にでもできます。困難なことをやめるのではなくて、どのように克服していって、さらに日本の素晴らしい力を世界に発信していくのか。そのことが今大切だと思うんです。万全の対策を講じて、あらゆる力を結集して前に行こう。それをしないことは、元々持つ日本の素晴らしい文化を、何か、なくしてしまうんではないかという危機感さえ感じます。

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【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。
28段落目:別々に帰る人は6パーセント程度→別々に帰る人は6~8パーセント程度
(2021年6月23日0:19 ダイヤモンド編集部)
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