「描いてくれてありがとう」
その一言に救われた気持ちに

被災地の「記憶」を記録する<br />―岩手県大船渡市・復興地図センター・瀬尾夏美氏陸前高田市米崎町の風景に鮮やかな色を乗せた、
瀬尾夏美さんのドローイング(絵)
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  人々の「ことば」の中にあるものごとが、町の景色の移り変わりと一緒に変化していくことに気づきました。それを一番強く感じたことから、岩手県の陸前高田という町で、「ここに居たい」と思うようになりました。

  率直に言うと、今、自分自身、何ができたのか、まだよくわかりません。
  私がここ(陸前高田)で絵を描いていることをなんと説明したらいいのか、最初は悩みました。こんな大変な土地に来て何をしているのだと思われるのではないかと……。
  だけど地元の人に私が描いた高田の絵を見せたとき、「描いてくれてありがとう」と言ってくださったのです。その一言に、私のほうが救われた気持ちになりました。
  現在は、被災後の町の景色を描いているのですが、その絵をきれいだと言ってくださる地元の方もいらっしゃいます。
  今は見るのも辛い景色かもしれないけど、その場所には楽しい思い出もあったと思うんです。私の絵を通して、ここに住んでいた人も、そうでない人も、そういうことに気持ちが近づけたらいいなと思っています。そしてそれはきっと絵や芸術の本質的な力なんだと、高田の方たちに教えてもらいました。

  思うのは、私がここに暮らし、ここで絵や文章にすると言う行為自体が、この町自体やこの町で起きていることを整理したり価値付けしたりすることに繋がっているということ。それは、ひとつ大切なことだと感じています。