「今を伝える」ことは、
「できること」を整理すること

  私は今、岩手県大船渡市にある「復興地図センター」というところで、地域のアーカイブ活動を行っています。震災当時の状況をインタビューしたり、現在おこなわれている町のイベントを撮影したり、また地図を使ったワークショップのお手伝いなどをしています。
  同時に、それらアーカイブを活用してもらいたいと考えていて、闇雲に記録を撮り溜めていくのではなく、取材したデータやレポートを、SNSを通じて発信したり、素材として住民の皆さんに提供したりしています。
  基本的に今起きていることを記録し、地域に役に立つ形にしたいと考えています。もちろん、こうしたものは、地域外の方にも役に立つのではないでしょうか。

何かしたい人のためにも
伝えていきたい

  さまざまな記録を通じて、今を伝えることがどんな意味を持つのか。
  ひとつは、ここで起きたことのすさまじさ、辛さ、悲しみが大きすぎると思うので、僭越ながらこの町以外の人たちも知り、学ぶ必要があるのではないかと思っています。
  それがこの町の人が抱える悲しみを少しでも和らげるひとつの方法であり、亡くなった方たちへの供養になるとも思います。

  また、実際問題ここで今起きていることを知らなくては、いくら「手を差し伸べたい」人がいても、どうすればいいのか、わからないと思います。
  実際に、私も東京にいるときは町がどういう状況かわかりませんでした。
  そのため、何をして良いかもわからなかった。だけど、私と同じように「何かをしたい」と思っている人は、今もたくさんいると思います。
  そういう人たちが何もできないでいることは、歯がゆい。お互いのフラストレーションにもなります。現状を伝えて、できることを整理することが重要だと思っています。

被災地の「記憶」を記録する<br />―岩手県大船渡市・復興地図センター・瀬尾夏美氏2011年9月、東北に1カ月間滞在した際、瀬尾夏美さんが地元の人から聞いた話を元に絵にしたもの。左から、cow、tent、ship-mountain
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※編集部注:水戸芸術館現代美術ギャラリーにて「3・11とアーティスト:進行形の記録」が開催中です(2012年12月9日まで)。瀬尾夏美さんを含め23組のアーティストの行動と表現を、2011年3月から現在へと時間軸をたどる形で振り返っています。