五輪開催で露呈した日本の「住」の脆弱さ、無観客開催に救われた人々写真はイメージです Photo:PIXTA

五輪の無観客開催で
救われた人々とは

 7月初旬、住居を喪失して東京都が契約したビジネスホテルに滞在していた人々は、間近に迫る五輪の影響で寝泊まりの場を失いかけた。

 初の「緊急事態宣言」が発された2020年4月以来、東京都はビジネスホテルの空室を借り上げ、住居を喪失している人々の「一時住宅」として提供してきた。この制度は2020年夏も維持され、借り上げ対価の上限は1泊1室4000円程度まで引き上げられている。しかしながら、閑散期は1泊4000円のシングルルームが五輪開催中は1万2000円でも満室になる。このような時期に、ビジネスホテルを運営する企業が、わざわざ住居喪失者に低廉に提供する経営判断をするとは期待できない。

 五輪開幕直前、この懸念は現実となった。ビジネスホテルに滞在していた人々は、7月12日までに退去することを求められた。この事実は、「退去させられそうだけど、次に行く場所の当てがない」という相談を支援団体に寄せた人々がいたため、明らかになった。7月7日、複数の支援団体が連名で「五輪開催期間中も一定の室数の確保を」「借り上げ対価の増額を」と東京都に申し入れたが、はかばかしい回答はなかった。

 ところが7月8日、東京都を中心とした五輪の無観客開催が決定され、ホテルのキャンセルが相次いだ。このため、ビジネスホテルに滞在していた人々は退去を求められなくなり、新規利用開始の障壁もなくなった。支援団体スタッフは、口々に「有観客なら危なかった」という。

 とはいえ、諦めて退去してしまった人々がいる。また、退去後の足取りを行政に把握されていない人々もいる。東京都が、現在の利用者や退去者の人数を明らかにしていないという問題もある。

 そもそも、「ビジネスホテルの空室」という不確かな資源を前提とした政策そのものが、危うさを内包しているのではないだろうか。