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めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編

イノベーションを遂行する「企業者」の条件

坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
【第29回】 2008年11月12日
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 前回は『経済発展の理論』第2章の「イノベーションの5分類」、そして「銀行家の役割」を詳しく読んだ。今回は経済発展の第3の要因である「企業者の機能」を読む。

 シュンペーターは、イノベーションは非連続的に現れることを何度も強調する。非連続性には2種類ある。第1種の非連続性は「軌道の変更」であり、第2種の非連続性は「発展担当者の変更」だという。

 非連続性の例えとして、「鉄道を建設したものは一般に駅馬車の持主ではなかったのである」(※注1)と書いている。つまり、旧い産業の担い手は、たいていの場合、新しいイノベーションを起こす力を待たない。新旧は併走し、やがて旧いものが淘汰されるということである。

 シュンペーターは「駅馬車」を持ち出しているが、これは訳がちょっとおかしい。駅馬車ではアメリカの西部開拓のようだ。

 正しくは「郵便馬車」である。18世紀に英国から欧州大陸へ広がった郵便と人員の長距離輸送手段で、鉄道が普及する19世紀後半まで重要な通信・輸送手段だったが、20世紀に入ると鉄道に取って代わられた。最初の商用鉄道は1825年、英国で開設されている。

シュンペーターが考える
「企業者」の定義

 イノベーションの担い手である企業と企業者について、シュンペーターはこう定義する。

 「われわれが企業と呼ぶものは、新結合の遂行(注・イノベーション)およびそれを経営体などに具体化したもののことであり、企業者と呼ぶものは、新結合の遂行をみずからの機能とし、その遂行に当って能動的要素となるような経済主体のことである。」

 一般的に「企業者」のイメージは、シュンペーター自身が書いているように、イノベーションを実現する英雄的で超人的な企業家像である。つまり一個の独立した天才的アントレプレヌールだ。

 しかし、『経済発展の理論』をよく読むと、英雄的個人ではなく、経済主体の機能のことを指していることがわかる。シュンペーターは企業家という言葉を多義的に使用しているのだ。

 「この概念(注・企業者の定義)を構成する機能を果たしているすべての人を指すのであって、彼らが現在しばしば見られるように株式会社や個人会社における『非独立的』使用人、たとえば支配人、重役などであってもさしつかえないし」(中略)「『金融業主』、『発起人』、金融法律顧問、技術者のように、単に新規設立のためにのみ働き、一つの経営体との間に持続的な関係をもたないものであってもさしつかえがない。」

 と、かなり広義に考えていることがわかる。しかし、一方でシュンペーターはこうも書いている。

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坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]

1954年生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、ダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集長などを経て現職。著書に『複雑系の選択』『めちゃくちゃわかるよ!経済学』(ダイヤモンド社)『浦安図書館を支える人びと』(日本図書館協会)など。


めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編

「経済成長の起動力は企業家によるイノベーションにある」とする独創的な理論を構築したシュンペーターの発想の冒険行を、100年前のウィーンから辿る知の旅行記。

「めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編」

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