階級社会#13Photo:PIXTA

日本社会の「階級化」を都市空間の視点で分析すると何が見えてくるのか。ここ10年で、東京23区における高所得地域と低所得地域の分布に、大きな変化が現れるようになった。下町地域の墨田区で世帯年収がアップし、富裕層の多い杉並区で世帯年収がダウンしているのだ。『新・階級社会 上級国民と中流貧民』の#12では、東京23区で起きている“序列異変”の実態に迫った。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

タワマン購入者の主力は新中間階級
鍵を握るホワイトカラーの存在

 今からちょうど6年前のことだ。東京都の再開発事業の対象に居住地域が指定されたという理由で、筆者は突然、立ち退きにあった。

 確か、補償料は80万円くらいだったと思う。目がくらんで散財したのでよく覚えていない。ゼネコンの命を受けた担当者から、「この後に立つタワーマンションへの入居を希望される場合は、(立ち退きの)書類にサインする必要はありません」と慇懃無礼に言われたことだけはよく覚えている。タワマンの原資となる先立つものなどあろうはずもない。

 東京都品川区。長い商店街があることで知られる駅から徒歩30秒。スナック街のど真ん中にある1Kマンションに住んでいた。1階入り口付近は野良猫の集会場と化しており、ミュージカル「キャッツ」の世界って本当にあるんだなと妙に感心したものだ。

 昭和で時が止まってしまったような空間だった。まともな社会人ならば出勤時間帯の朝8時。スナックからは、酔客によるカラオケの歌声とママの酒やけ声が外まで漏れていた。場末感たっぷりで、2時間サスペンスドラマの撮影クルーをよく見かけた。

 高度経済成長期には、仕事帰りの労働者に愛された街だったらしい。スナックやパブがところ狭しと並ぶ路地には、塩気の濃い町中華やべらぼうに安い立ち飲み屋も入居していた。

 そして6年後の現在、スナック街は跡形もなく消え去った。同じ場所には二棟のタワーマンションがそびえ立っている。平均価格帯は1億円前後。近隣情報によれば、さらに二棟ほど建設されるらしい。

 明らかに、街の「階層」は一変した。ありていに言えば、行儀の良い、つまらない街になった。

 同じ敷地内には、オーガニックスーパーやワインバーが開店。メインストリートの商店街でも、昔ながらの個人商店は消えチェーン店だらけになった。かつてのように、朝方に酔っ払いが道端に転がっていることなどない。酒やけママもキャッツも消えた。

 それでは、この地に新たに「流入」したタワマンの住民が皆、生粋のお金持ちなのかといえば、そうでもなさそうだ。駐車場に滑り込んでいく車は、高級外車やレクサスばかりではなく、国産大衆車も見かける。

 ここ10年で、東京23区における高所得地域と低所得地域の分布に、大きな変化が見られるようになった。下町の墨田区で世帯年収がアップし、富裕層の多い杉並区で世帯年収がダウンする。このような「序列逆転」が起きているという。

 一体どういうことなのか。日本の格差拡大、階級社会へのシフトは、都市空間にどのような影響をもたらしたのか。実は、その変化の鍵を握っているのが、大企業エリートやホワイトカラーなどの「新中間階級」の存在だった。