横たわる遺体をよそに始まった警察の事情聴取

シェアハウスに映る死、夢、そして孤独の今家の玄関は住民の靴で溢れている

 佐藤が入居してから既に1年以上が経っていた。都内私鉄沿線駅から5分ほどのところにある物件の定員は20名ほど。それに対する入居者数の比率、すなわち「稼働率」は、平均して60%程度だった。

 元々、何の縁もなかった10名以上が常に生活を共にする場。「このシェアハウスの雰囲気は自分に合わない」と感じた者であれば、早ければ数週間、そうではなくても平均3ヵ月で退居していく現実がある。そういったなかでも、イジメられる時期こそあったものの、佐藤はそれなりに落ち着いた生活を送っていたようだ。

 最終的に警察が断定した事実によれば、亡くなる前日、リビングで深夜3時くらいまでシェアメイトとテレビを見ていた佐藤は、毎日服用している薬の分量を間違えたために突然の死を迎えたことがわかっている。

 末吉の報告を聞いた増田は、勤務歴が長いスタッフも現地に向かわせた。その場の状況説明や書類作成・連絡が必要になった際の対応が必要になることは容易に想像でき、また、佐藤がベッドで失禁しているということも聞いたため、力作業が必要になるだろうと思ったからだった。

 現場に警察が到着すると、佐藤の遺体を確認し、そのままシートでくるんで玄関の前に横たえた。そして、すぐさま、持ち物や薬といった遺留品の確認を行い、住民には佐藤の普段の様子を、スタッフにはシェアハウスの運営実態を1時間ほど尋ねていた。

「途中、昼過ぎまでの仕事が終わって帰ってきた住民さんがいて、警察が来ているのもそうですけど、玄関前にゴロンと遺体が置いてあったのにはさすがに引いてましたよね。一応、『まだ帰ってきていない住民さんには、警察が調べているところなんで、あまりこのことを大げさに言わないように』って、咄嗟に言いましたけど」

 部屋の清掃はオーナーが自腹で負担

 このとき増田は、インターネットで葬儀社を検索し、WEBページを丁寧につくっている会社を選んで電話をしていた。多少なりとも向こうにとって想定外の質問をした場合でも、丁寧に話をしてくれるだろうと思ったからである。

——すぐに葬儀のお願いという話ではなくて申し訳ありません。ちょっとした不動産を持っている者なんですが、住民さんが亡くなってしまいまして。一応、警察が今入って現場検証しているんですが、この後の展開ってどうなるんでしょうかね?不動産オーナーがやらなければならないことって出てくるんでしょうか?もし葬儀が必要となったら、ぜひ御社にと思うんですが……。

「そうですか。警察が来ているならご遺体は持っていくはずです。あと体液が付着したシーツなどを一緒に持っていく場合も。それで、警察のほうでも親族を探すでしょうが、オーナーさんも連絡をとっておいたほうがいいかもしれないですね。親族が対応してくれるなら、遺品受け取りとか汚れた物品の弁償、掃除の費用とかも払ってくれる可能性が出てきます。でも、そうじゃないと自腹なんで、そこはね」

——遺体とか、葬儀とかは?

「あ、それは大丈夫です。もし遺族が遺体の引き取りを拒否すれば、無縁仏ってことで警察が対応することになるだろうし。警察が引き取る場合は、改めてオーナーさんで葬儀をどうこうするって必要もないでしょうね」

 結果は、「そうじゃないと自腹」だった。