トラウマから出社できない
「適応障害」による引きこもり

 大手メーカーの技術職に勤める30代のヤマグチさん(仮名)は、ある日を境に、会社の玄関がくぐれなくなった。

 会社の門の前まで来ると、急に動悸が激しくなり、身持ちが悪くなる。ヤマグチさんは、どうしても会社の建物に入ることができず、家に引き返すようになったのだ。

 ヤマグチさんは、都心部のマンションで1人暮らし。それまではとくに不登校の経験もなく、入社してから体に異常な兆候も見られなかったという。

 ところが、会議の席で、上司の課長にかなり厳しく詰問されたことがあった。

 ヤマグチさんにとって、課長から与えられた研究課題は、難し過ぎた。そこで、課長に相談しようとしても、課長は自分自身の仕事で忙しく、なかなか取り合ってもらえなかったという。その頃から、ヤマグチさんはなかなか寝つけず、不眠症に悩み始めていた。

 「いままで何も教えてくれなったのに、皆がいる前で、そこまで言うのか…」

 課長に叱責されたとき、ヤマグチさんは、涙が止まらなくなった。

 会社の玄関をくぐれなくなったのは、このときからだ。

 この会社では、2週間以上無断欠勤を続ける社員がいれば、懲罰処分になる。不況でリストラが進められる時代でもあり、人事担当者も放っておくわけにはいかない。

 人事担当者は、欠勤を続けるヤマグチさんや家族に連絡した。彼を会社の健康管理室に連れて行くためだ。

 その後、実家の両親の勧めで、ヤマグチさんは、医療機関の内科で症状を診てもらった。しかし、とくに病気や体の異常は見当たらなかったという。

 カウンセラーが出勤できなくなった理由を聞くと、ヤマグチさんはこう答えた。