天下り廃止と新卒採用抑制がもたらす悲劇

竹内 居座る人は結構な数いるのですか?

最終回 <br />安易な天下り全廃がもたらす悲劇 <br />組織を離れたOBのあるべき姿とは宇佐美典也(うさみ・のりや)
1981年、東京都生まれ。暁星高等学校、東京大学経済学部を経て、経済産業省に入省。企業立地促進政策、農商工連携政策、技術関連法制の見直しを担当したのち、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)にて電機・IT分野の国家プロジェクトの立案およびマネジメントを担当。2012年2月に開設した「三十路の官僚のブログ」(現在は「うさみのりやのブログZ~三十路の元官僚のブログZ~」に改称)では、自身の給与や官僚生活を赤裸々に公開して大きな話題を呼んでいる。

宇佐美 たまにいる程度です。退職勧奨でトラブルになりやすいのは、ノンキャリアの二種から一種のキャリア待遇に抜擢された人たちですね。キャリアとして入省した人は、ある意味で、最初から肩を叩かれる覚悟ができています。しかし、二種の人たちは、基本的には定年近くまで勤める予定で入省しています。そういう人が中途で抜擢されて、定年前に突然退職勧奨をされると、「そんな話は聞いていなかった。それなら抜擢なんて断っておけばよかった」と感じるんだと思います。

竹内 抜擢を断るのも難しいですしね。サムスンも退職は早いみたいです。あるレベル以上の役職では何年以内に昇進できなかったら退職という、アップ・オア・アウトの世界。若くして部長クラスに昇進してしまうとかえって大変で、非常に優秀なのに、早く昇進しすぎて辞めざるを得ない場合もあるようです。

宇佐美 すべての天下りがダメとなると、高齢になっても組織の中に居座り続ける人が増えるでしょう。それも「ほどほどの人」ほど残ると思います。すると、新陳代謝が進まず、組織が硬直化して時代の変化についていけなくなってしまいます。これで最終的に不幸になるのは国民です。天下りに関しては、もう少しバランスを考えて議論してほしい。民間企業でも、大組織なら子会社への天下りは日常的に行われている現実もあります。

竹内 実際に、役所に居座り続ける人は増えていますか?

宇佐美 これからそうなると思います。民主党政権で、退職年齢を原則65歳まで引き延ばした代わりに新卒採用を抑制する、という決定がなされました。本当にこの先が心配です。そんな決定をしておいて、民間企業に「もっと若者を雇用すべき」なんて要請している。もはや失笑を禁じ得ません。一体、若者を何だと思っているんでしょうか?怒りを感じます。

竹内 それは最悪のパターンですね。もし政権が代わっても、元には戻らないのですか?

宇佐美 一度やってしまったものをそのまま元に戻すことは難しいと思います。答えを見つけるまでには時間がかかりそうです。そういう意味では、民主党は取り返しのつかない失策を犯したと思います。

 私の天下りに関する考え方は、天下り自体が問題というより、「天下り先」が問題だ、というものです。所管分野の大企業や公益法人といった既存のシステムを守る側の団体ではなく、ベンチャー企業やNPOのように新たなエコシステムの創出に取り組む団体への再就職を支援する仕組みがあるべきだと思うんです。幅広いネットワークを持っている官僚OBであれば、新しい風を起こそうとしている若いベンチャー企業をサポートすることができると思います。