某大手英会話スクールのつり革広告に、こんなのがある。

 アップで写っている女性は「Yes」と言っている。しかし、実は女性は心の中で「本当は、納期や品質面といったリスクがあるけれど、自分の英語力では説明しても伝わらなくてややこしくなるし、ここは黙ってやります」と悲鳴を上げている、というものだ。

「英語力がなくて言うべきことを言えないと困りますね」「だから、もっとしっかりとした英語を学ばないと、ビジネスなんだから」という、そんな広告なの。

 個人的にはユーモラスな広告で好きだけれど、英語という観点でみると、この広告には二つの大きな欠点があると思っている。

 一つめの欠点は、この広告のシリーズは「完璧な英語を話そう」というキャンペーンであるということだ。この「完璧な英語を話そう」という概念はやっかいだ。

 言語は、本来であれば、下手でもいいから使う。多少間違えてもトコトン喋り抜く。何しろ使って使い倒すことで上達するものである。完璧な素振りができるまでバッターボックスに立つのはやめようといっているような発想ではなく、どんどんバッターボックスに立ちながら、本番で失敗や成功を重ねるなかで上達してく。言語はこの発想で行くべきだ。

「もっと完璧に、もっと完璧に」と煽るのは「とりあえず使ってみようか」という気持ちをくじく可能性が高い。英語学習においては非常に「いらないお世話」なのである。

 そして、もうひとつの、いや最大のこの広告の欠点は、あたかも、この広告の女性の問題が、「上手に英語を話せないこと」と位置づけていることにある。

「上手に英語を話せない」→「コミュニケーションを諦めざるを得ない」→「だから英語を学習しましょう、ビジネスなんだから」という図式を成り立たせている。

 しかし、これは大きな間違いであると思う。