橘玲の世界投資見聞録 2012年11月29日

[橘玲の世界投資見聞録]
インドネシア・東南アジアにはびこる“汚職”という文化

―――――

 素行の悪い従業員をクビにしたら、不当解雇で裁判所(労働仲裁所)に訴えられた。仲裁所から召喚状が来て事情聴取が行なわれた後、裁判官が会社の担当者を呼び止めた。「1000ドル払えば、解雇は正当だという判決を出してやる」

 会社に持ち帰って上司と相談すると、「1000ドルは高いから600ドルに負けてもらえ」と指示された。裁判官と再交渉して、650ドルで「解雇正当」の判決を得た。

 すると元従業員は、上級仲裁所に控訴してきた。担当者はこんどは上級仲裁所の裁判官から、「判決がほしいなら1000ドル払え」といわれた。そこでまた値引き交渉が始まったが、こんどは750ドル払わされた。

 ところが、いつまでたっても判決が出ない。しかたがないので督促にいくと、裁判官は、「あの従業員は暴力沙汰を起こしかねないから判決は出しにくい。ここは示談で解決してはどうか」という。

 不審に思って調べてみると、元従業員の親戚が上級裁判所とつながりがあることがわかった。これではいつまで待っても判決は出ないので、元従業員に高額の和解金を払って示談せざるを得なくなった……。

――――

 にわかには信じられないかもしれないが、中原洋『腐敗と寛容 インドネシア・ビジネス』(東洋経済新報社)に出てくる実話だ。「判決をカネで買う」という話はときどき聞くが、「カネを払ったのに判決が買えない」こともあるのだ。

ジョグジャカルタ近郊にある世界最大の仏教遺跡ボロブドゥール (Photo:©Alt Invest Com)  ※写真は本文とは関係ありません

インドネシアの汚職の実態

 新興国では常に汚職が問題になる。東南アジアでも、シンガポール以外のすべての国で贈収賄が当然のように行なわれている。ここでインドネシアを取り上げるのは、スハルト独裁政権の崩壊(1998年)と民主化によって、その実態が明るみに出たからだ。
『腐敗と寛容』から、いくつか汚職の例を挙げてみよう。
 

―――――


入札に不正があるとして、検察庁から呼び出しがきた。公共事業ならともかく、指摘されたのは私企業同士の入札で、不正など起こりようがない。

 だが何度説明しても検察官は納得せず、社内の関係者を呼び出してはまる1日かけて尋問する。インドネシアでは、検察官は事件を調査したうえで事情聴取するのではなく、証拠がなくても訴えさえあれば関係者を呼び出すことができるのだ。

 訴えたのは、入札に落ちた業者だった。その後、当の業者から接触があり、自分と検察官に3万ドルずつ払えば訴えを取り下げるという。検察官からは、「和解しなければ社長を召還・拘束する」と脅された。

 このときはさすがにあまりに理不尽なので、「召還にはいつでも応じるが、そのかわりすべての経緯を政府、国会、マスコミに公表する」と社長も腹をくくった。

 それを検察官に伝えると、なにもいってこなくなった。

―――――

 車を盗まれたので警察に届け出たら、3日後に「見つかったから取りにくるように」と連絡があった。

 ほとんど諦めていたので、喜び勇んで警察署にいくと、「捜査費用2500ドルを払わなければ車は警察で没収する」といわれた。中古で売れば5000ドルになるのだから、それを折半すべきだという理屈だ。

 この車は盗難保険に入っていて、保険会社の査定で3500ドルの保険金が下りることになっていた。だったら、2500ドル払って中古車を取り戻すより、保険会社から3500ドル受け取った方が得だ――そう考えて難問に気がついた。保険金を請求するには盗難届けが必要なのだ。

 そこで警察に相談すると、盗難届けは500ドルだという。けっきょく、自分の車が目の前にあるのに500ドルで盗難届けを出してもらい、保険会社から差し引き3000ドルを受け取ることにした。もちろん、発見された盗難車は警察のものになった。

―――――

 会社に税務調査が入り、8万ドルの申告漏れがあるとして、問答無用で支払い命令を出された。不服を申し立てることもできるが、結論が出るまでに2~3年かかる。

 困り果てて税務署に相談にいくと、「追徴額は7000ドルに負けてやるから、そのかわり俺の口座に7000ドル振り込め」という。これではあまりにもヒドいと調べてみると、その7000ドルは税務署職員が着服するのではなく、税務署長以下の関係者で分配するらしい。

 それならしかたがないと、1万4000ドルを支払う旨を伝えると、税務署職員から、「国に納めるのは2000ドルにするから、残りの1万2000ドルは税務署に払え」といわれた。

―――――

 ある会社が、州議会の公聴会に召還された。といってもなにか問題があるわけではなく、たんなるヒアリングだ。20名の議員と、20名の報道関係者が出席するという。

 議会事務局からは、出席予定の議員と報道関係者1人当たり20ドル、合計800ドルの日当を用意するよう告げられた……。

   ―――――

 どれもこれも荒唐無稽な話ばかりだが、なぜこんなに汚職が蔓延するのだろう。誰もが指摘するのは、公務員の給与が安すぎることだ。

ボロブドゥールの回廊の壁は仏教説話のレリーフで覆われている (Photo:©Alt Invest Com) ※写真は本文とは関係ありません

『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル 』

作家・橘玲が贈る、生き残りのための資産運用法!
アベノミクスはその端緒となるのか!? 大胆な金融緩和→国債価格の下落で金利上昇→円安とインフレが進行→国家債務の膨張→財政破綻(国家破産)…。そう遠くない未来に起きるかもしれない日本の"最悪のシナリオ"。その時、私たちはどうなってしまうのか? どうやって資産を生活を守っていくべきなのか? 不確実な未来に対処するため、すべての日本人に向けて書かれた全く新しい資産防衛の処方箋。 

★Amazonでのお求めはコチラをクリック!
★楽天でのお求めはコチラをクリック!

 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。


橘玲の書籍&メルマガのご紹介
世の中(世界)はどんな仕組みで動いているのだろう。そのなかで私たちは、どのように自分や家族の人生を設計(デザイン)していけばいいのだろうか。
経済、社会から国際問題、自己啓発まで、様々な視点から「いまをいかに生きるか」を考えていきます。質問も随時受け付けます。
「世の中の仕組みと人生のデザイン」 詳しくは
こちら!
橘 玲の『世の中の仕組みと人生のデザイン』 『橘玲の中国私論』好評発売中!

バックナンバー

»関連記事一覧を見る

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。