11月20日~25日、香港に出張した。目的は、国際学会での研究報告と、香港の大学2校との将来の交換留学を目指した関係構築という、いわば「営業」であった。日本とまったく異なる国際的な空気の中で、さまざまな人と接した。そして、日本に帰国すると総選挙に向けて、各政党が必死のアピールをしていた。それを見た印象は、「日本の政治家は、本当に日本のことしか考えてないな」だった。

国際学会では、ベトナムの学者の研究報告を聞いた。ベトナムでは、WTOに加盟後、中国製品が湯水のように流入して国内市場を席巻しているという話だった。しかし、彼はベトナム政府が自国製品を保護すべきだと主張しなかった。ベトナムの産業育成には外資の導入、技術移転が必要である。外資により自国産業が崩壊するリスクを抱えても、いかにそれを最小化し、外資から何をどれだけ得られるか、ギリギリに知恵を絞るべきという話だった。東南アジアの新興国にとって、米国、中国、日本の3つの超大国の脅威は宿命なのだ。宿命を受け止めて、どう生き残るか、頭を使って行動しているのである。

 一方、日本ではTPP交渉参加について「日本の農業が崩壊する」「米国が金融、保険、医療などの市場を席巻する」という反対論ばかりが大きく響いている。TPP反対派の政党だけでなく、TPP推進の立場の野田佳彦首相まで「国益は死守する」という表現で、TPP交渉参加の際に、農業保護は主張すると訴えている。

 また日本では、TPP参加が東南アジアの新興国の製造業を崩壊させる可能性に言及する政党はない。「例外なき関税撤廃」を批判する政党があるが、それが日本の製造業の輸出に圧倒的に有利となる側面があることが無視されている。前述のベトナムなど新興国は、日本がTPP参加の新興国に対して、どのような投資を行い、人材育成、技術の向上をサポートし、産業育成に貢献し、共にグローバル経済を生き抜いていくのか、メッセージを待っているのだ。

 だが、日本の各政党の主張は、「とにかく農業、市場を守る」の一点張りであり、成長戦略といえば、円安による輸出促進策ばかりだ。要するに「日本国内の産業はすべて保護します。新興国の産業がどうなろうと、どんどん輸出を促進しますので、わが党に清き一票を!」ということなのだ。これを東南アジアの新興国はどう見ているか、日本の政治家は一度でも考えてみたことがあるだろうか。