経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第19回】 2012年12月11日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【平田オリザ氏×武田隆氏対談】(中編)
親密になるためには、あえて遠くから近づくことが大切なんです。

たとえば、友達とつながっているソーシャルメディア上にいきなり「この商品を買ってください」と企業広告が表示されたとする。おそらく多くの人は“引く”だろう。
では、こうした嫌悪感はなぜ起こるのだろうか?平田オリザ氏によれば、この“引く”という心情は、イメージが共有できていない段階で強いメッセージやイデオロギーを押しつけられたときに生じるのだという。どうやらコミュニケーション巧者とは、段階を追ってコンテクストをすり合わせていく術を心得ている人のようだ――もちろん、これは顧客と接する企業についてもあてはまる。

話がうまい人は、「冗長率」をコントロールする

平田オリザ(ひらた・おりざ)
劇作家・演出家、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐、劇団「青年団」主宰、こまばアゴラ劇場芸術監督。1962年生まれ。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞、2003年『その河をこえて、五月』で第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。フランスを中心に世界各国で作品が上演・出版されている。
著書に『演劇入門』『わかりあえないことから』(以上講談社新書)、『幕が上がる』(講談社)等。ドキュメンタリー映画『演劇1,2』も公開中。

平田 人の話には「冗長率」というのがあることをご存知ですか?

武田 長くなる会話と短くなる会話があるということでしょうか。

平田 「冗長率」とは、あるセンテンスやパラグラフの中で、意味伝達と関係ない言葉が含まれている割合のことです。無意味な言葉が多ければ多いほど冗長率は高くなります。

武田 家族や恋人どうしの会話というのは、冗長率が高そうですね。

平田 それが、そうでもないんです。ごく親しい人々で交わされる「会話」は、意外にも冗長率が低いんです。内容は冗長なのですが、「あぁ」「まぁ」「いやー」などの無意味な言葉は滅多に含まれない。むしろ、長年連れ添った夫婦なんて「風呂」「めし」「新聞」など、まったく無駄のない会話をするでしょう?

武田 たしかに(笑)。

平田 そして、この冗長率は低ければ低いほうがいい、というわけでもないんです。もちろん演説やスピーチは低いほうがいいですよ。でも、他人とコミュニケーションするための「対話」は、相手のことを探りながら話す必要があるので、どうしても冗長率が高くなります。そして、話がうまい人というのは、冗長率を時と場合によって適切に操作できる人のことなんです。

 ニュース番組のキャスターも、気をつけて見てみると、夜7時のニュースと9時のニュースでは、冗長率を変えていることがわかります。

武田 私たちは基本的に、冗長率を低くするほうがいいと教えられてきたような気がします。

平田 従来の書き言葉中心の国語教育ではそうでした。でも、話し言葉はある程度冗長率が高く、前回の対談(「決して同じ気持ちになれなくても、つながることはできるんです。」)でお話ししたようにランダムなほうが伝わりやすいんです。きっと営業成績のいいセールスマンも、経験からこのことを知っていると思います。

 これからは、その適切な冗長率をパラメータ化して、プログラミングしたり教育したりする方向に向かうでしょう。インターネットだと、やりとりのすべてがデータとして残るので、そのあたりも分析しやすいんじゃないでしょうか。

武田 たしかにそうですね。ソーシャルメディア上で育成されるオンライン・コミュニティは、発言やそれに対する返信などクリアに記録されるので、賑わっているのかそうでないのか、雰囲気だけでなく数値で把握することができます。

平田 なにかおもしろいことがわかりましたか?

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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