大学を卒業して上京した私は、初めての一人暮らしと初任給の低さの狭間でお金のことばかり心配して生きていました。食べることに困っていたのではないのです。生きていける条件はすべてそろっていたのですから。

 でも、狭いワンルーム・マンションの部屋で、納豆ともやしを食べるとき、ユニットバスで窮屈な入浴をするとき、洋服の値札を見てそっとお店を出るとき、夕方のスーパーで半額になった値札で幸せになるとき……いつも「あ~あ、お金がもっともっとあったらなぁ」と思っていたのです。

  当時の私は何がしたいのかわからないままに、「このままではいけない」と思い、秘書検定や英検などを受けたり、食費を削って英会話教室に通ったり……と、それなりに焦っていました。資格をとればもっとよい給料のところに転職できるかもしれないという“期待”と“焦り”。

 それでも見えない未来に漠然と「このまま結婚してお母さんになるのかなぁ」と将来を想像したりしていたのです。

  そして、現実の中では、どんなふうに生きていくとしても「お金の心配」をしないで、いい人生を生きていきたいと思い始めていたのです。家賃の心配やカードローンの心配をせず、お金から自由になって生きたいと。

 OLだった私が、真っ先に飛び込んだのが銀座のクラブでした。時給3800円。
「これでお金の心配はなくなるかも」……と思ったのもつかの間です。
 そのまま残っていればまた違う人生だったのでしょうが、そこは女っぽくないし、会話も下手な私に合う世界でもなく、結局、根性もなくすぐに辞めてしまったのです。

 ただただ「お金から自由になる方法」を探し求め、次にめぐり合ったのが営業の仕事だっただけなんです。……それが私が営業の世界に入った動機。
 ……それだけです。かっこよくないでしょう?
 もちろん、出世したいとか、トップになりたいとかそういう目標は一切なし。