デンマーク創業のブロック玩具メーカーが急成長を遂げています。プラスチックのブロックだけを扱い、かつては模倣品があふれて経営危機にも直面したレゴ。しかしその後、レゴは驚異の復活を果たします。現在の売上高は玩具業界の中で世界一。ブランド信用力も世界一。『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』では、レゴの強さの真髄を描きました。本連載ではレゴを知るキーパーソンに強さの理由について解説してもらいました(聞き手は蛯谷敏)。

知育玩具だけじゃない!「レゴ スーパーマリオ」世界的な大ヒットのワケレゴジャパンの長谷川敦社長

――最近では、レゴ スーパーマリオのヒットが話題を呼びました。

長谷川敦氏(以下、長谷川) デジタル時代のレゴの遊び方をうまく示すことができたと思います。レゴは決してデジタルゲームの会社にはなりませんが、これからの子どもたちの遊び方は、デジタルと無縁ではいられません。

 この時、レゴとしてどのようにデジタル化を進めていくのか。我々が取り組む課題は大きく、3つのテーマがあると思っています。

 一つは遊び方。今の子どもたちには、「ここまでがデジタルで、ここまでがアナログ」といった境界がありません。両方の領域を自由に行き来して遊ぶことが普通になっていますので、それに対応していく必要があります。

 二つ目は、売り場のデジタル化です。レゴの販売は電子商取引(EC)にどんどんシフトしていて、デジタル上の購入体験をいかに高めるかが重要な要素になっています。ECだけでなく、さまざまなレゴのサービスをIDを一つで利用できるような利便性の向上も不可欠です。

 そして最後が、メディアの接点です。スマートフォンが代表的ですが、消費者が触れるメディアの変化に合わせて、コミュニケーション手段も変えていく必要があります。

 これらの課題のうち、レゴ スーパーマリオは一つ目の遊び方のデジタル化に取り込んだ例だと言えます。

 レゴスーパーマリオでは、マニュアル通りにブロックを組み立ててコースを再現できるだけでなく、子どもたちが創造性を発揮して、自分だけのコースを作れます。マリオの世界に浸りながらも、物理的にレゴを組み立ててコースをデザインすることができます。

――デジタルゲームの世界を再現しつつ、物理的なブロックの組み立て体験にはこだわるわけですね。

長谷川 物理的なブロックを使って自分なりのコースを作ったりするところは、レゴらしさの根幹です。ですから、そこは絶対に残します。自分の創造性を発揮できる部分でもありますから。

 一方で、それ以外の領域ではデジタルの要素を積極的に取り込んでいます。主人公のマリオは液晶ディスプレイを使い、表情が感情に合わせてさまざまに変化します。コースもスマートフォンのアプリと連動していたり、説明書もデジタル化したり。

 デジタルゲームの世界観にブロックの組み立てという体験がうまくはまったのが、レゴ スーパーマリオが成功した大きな理由だと考えています。

――マリオもレゴ同様、世代を超えて愛されていますね。

長谷川 結果論ですが、新型コロナウイルスの影響は小さくなかったと思います。自宅で過ごす時間が増え、親子で遊びやすい玩具のニーズが高まっていた状況が人気を押し上げた面はあると思います。

 子どもの遊び方や生活スタイルは、当然ながら親の影響を大きく受けます。父が野球好きなら子どもも野球を始めるケースが多いでしょうし、サッカーならサッカーファンになりやすいでしょう。

 遊びも同様で、親がレゴに好意的な家庭だと、子どももレゴ好きになりやすい。レゴに限らず、子どもを対象としているブランドは、親がとても大切なインフルエンサーになります。その意味で、マリオとのコラボレーションは「親の共感を得る」という点で、日本では特に効果があったかもしれません。
(2021年12月21日公開記事に続く)