認知科学をベースに「無理なく人を動かす方法」を語った『チームが自然に生まれ変わる』は、マッキンゼーやネスレ、ほぼ日CFOなどを経て、エール株式会社・取締役として活躍する篠田真貴子さんも絶賛する「新時代のリーダー論だ。
多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているいま、部下を厳しく管理することなく、それでも圧倒的な成果を上げ続けるには、どんな「発想転換」が求められているのだろうか?

転職して「追い詰められていく人」と「才能が広がっていく人」との根本的な差Photo: Adobe Stock

人のWant toは1つとはかぎらない

 個人のWant to(心からやりたいと思っていること)を探るときには、どんなポイントが重要になってくるだろうか?

 今回は「20代の女性エステティシャン」の部下を例にとって見ていこう。

 彼女は以前、都内の式場でウエディングプランナーとして働いていた。

「ウエディングプランナーになるために自分はこの世に生まれてきた」と豪語するほどの熱い思いを持って専門学校に入学し、その後、この憧れの職業に就くという夢を叶えた。

 ところが、たったの3年で彼女はウエディングプランナーの仕事を辞めてしまう。

 その後、彼女はパーソナルトレーナーになり、フィットネスジムの社員として働くことになった。

 トレーナーへの転身ぶりには目を見張るものがあり、めきめきと実力を上げていった彼女は、1年後にはもう自分がウエディングプランナーだったことを忘れかけるほどだった。

 ところが、さらに驚くべきことに、彼女はあれだけのめり込んでいたパーソナルトレーナーの仕事を2年で辞めてしまう。

 そして現在はエステティシャンとして活躍しているというわけだ。

 5年のうちに3つの職種を渡り歩いている彼女の行動を外側から見ると、やりたいことがいつまでも見つけられない人物だと思う人もいるかもしれない。

 しかし、その受け取り方は間違っている。

 ウエディングプランナーの仕事をはじめた彼女は、ある時点で、自分が「結婚式のプラニング」という仕事そのものに魅力を感じていたわけではないことに気づいた。

 むしろ、彼女の喜びは、顧客自身も気づいていない潜在的な欲求を満たしていくことのほうにあった。

 彼女にとっての真のWant toは、「他人の人生の大切な時期に寄り添い、その人の力になること」だったのだ。

 そのWant toの軸からずれていないからこそ、彼女はウエディングプランナーとしても、パーソナルトレーナーとしても、エステティシャンとしても、圧倒的なパフォーマンスをあげることができている。

 Have to(やらねばならないと思いこんでいること)に埋もれるような仕事選びを一度もしていないのだ。

 このエピソードから見える、さらに重要なポイントは、個人に内在する「真のWant to」は、必ずしも1つとはかぎらないということだ。

 彼女がウエディングプランナーからパーソナルトレーナーへ、さらにそこからエステティシャンへと転身していったのは、彼女のなかに「視覚的に美しいものに触れていたい」というもう1つの根本的な価値観が存在しているからでもある。

「人の心を満たす」と「美しいものを取り扱う」という2つの要素から逸脱しなければ、彼女はこれからも自分の仕事に満足し、確実に成果をあげ続けるに違いない。