「まさに『忘れた頃にやって来た』という印象だ。自分をはじめ、エコノミスト仲間は皆、来期の経済見通しの上方修正を考えていた。突然、予測シナリオが狂ってしまい、見直し作業に頭を悩ませている」

 ある銀行系シンクタンクのエコノミストは、顔を曇らせる。

 このエコノミストが困惑している事態とは、先月末に発生した「ドバイショック」である。金融関係者や専門家のあいだには、「すわリーマンショックの再来か」と激震が走り、マスメディアは1年前と同様に、金融危機不安を大々的に報じた。

 ことの発端は、去る11月25日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国政府が行なった発表だった。債権者に対し、政府の持ち株会社であるドバイワールド・グループが抱える債務の返済猶予を要請したのだ。その額ざっと590億ドル、日本円にして5兆円にも上る。

 この発表は、瞬く間にドバイ首長国の「信用不安」を引き起こし、UAE向けの融資残高が突出して多い欧州諸国にも不安が飛び火した。ユーロが急激に売り込まれて、世界の為替・株式市場はパニックに陥ったのだ。逃避したマネーは、格付けの高い国債に流れ込んだ。

 他国と比べてUAEへの投資額が小さいにもかかわらず、深刻な「とばっちり」を食らったのが、日本である。金融危機後に基軸通貨としての信頼を失いつつある米ドルに対して高止まりしていた日本円は、ユーロに対しても急激に高騰した。

 その影響はすさまじく、円はドルに対して、一時14年ぶりとなる84円まで高騰。それを嫌気した株式市場でも投げ売りが起き、日経平均株価は300円以上暴落して、9000円台を割り込む水準に迫った。

 ここにきて市場は落ち着きを取り戻しているものの、ドバイ政府がドバイワールドの債務を保証しない方針を示したこともあり、関係者の不安が尽きることはない。

 今回のドバイショックは、リーマンショックに端を発する世界的な金融危機不安を忘れかけていた金融市場に、冷や水を浴びせた。それも、「世界経済の牽引役」と目されていた新興国が舞台となったのだ。