6000軒を片づけた家政婦が教える「片づけられない人」の問題点

20年以上にわたり、のべ6000件以上の家を片づけてきた「片づけのプロ」、seaさん。家事代行マッチングサービス「タスカジ」では「予約が取れない家政婦」と呼ばれ、この冬「セブンルール」にも出演するなど、人気が急上昇している。
そんなseaさんの片づけ術の集大成が、新刊『家じゅうの「めんどくさい」をなくす。ーーいちばんシンプルな「片づけ」のルール』。プロ歴20年以上のseaさんは、家が散らかる原因はすべて「めんどくさい」が放置された結果という結論に達した。その「めんどくさい」をなくせば、どんな家でも片づいて、しかもリバウンドしない。
なぜ、そんなシンプルな方法でうまくいくのか?
著者インタビュー1回目は、片づけられない人が見逃している、家の中の「めんどくさいポイント」についてseaさんにうかがった。(取材・構成/樺山美夏、撮影/疋田千里)

片づけられない人は、ズボラなわけではない

──「家が散らかっている人は、片づけがめんどくさいズボラな性格」というイメージがありますが、seaさんが片づけをサポートしてきた人たちはいかがですか。

sea:じつは、逆なんですよ。むしろ真面目な方が多いです。私の依頼者様は、「今度こそ自分で片づけられるようになりたい」とすごく力んでいて、自分でなんとか頑張ろうとしています。「“めんどくさい”なんて口に出して言っちゃいけない」と思っている人のほうが多い印象ですね。基本的にみなさん、お金を払ってまで生活を改善したいと思っているわけですから、すごく真剣だし真面目なんです。

 私が依頼者様のお宅を訪問して「はじめまして」と挨拶した次の瞬間、「ぐちゃぐちゃで本当に申し訳ないんですけど……」「本当に散らかっていてすみません……」と、みなさん恐縮されます。そして、「私って本当に片づけられない人間なんです」「片づけなきゃいけないっていつも思っているんですけど、余裕がなくて……」と謝罪の言葉が続くのです。

──そんなに「申し訳ない」気持ちになっている方が多いんですか。それはしんどいですね……。

 そういう方は、「片づかないのは自分のせい」「努力が足りないから散らかってしまう」と自分を責めてしまいがちです。「夫が口うるさいからもっと片づけ上手になりたい」、「自分でやるのはもう限界。でもだらしない母親だと思われたくないからプロに学びたい」と、家族に対する憤りや申し訳なさを口にされる方もいます。私の片づけは、この「自分が悪い」「家族が悪い」という意識を捨ててもらうことからはじまります。

片づけられない人が見落としている
5つの「めんどくさい」ポイント

──つまり多くの人が、「めんどくさいから片づけられない」わけじゃないんですね。

sea:「片づけたいのに、うまくいかない家になっている」状態で、リバウンドを繰り返している方がほとんどです。ですから、「うちが散らかっているのは自分が悪いからだ」と思っている方には、「片づけができないのはあなたのせいじゃないですよ」とお伝えしたいのです。

 片づけられない諸悪の根源は、家じゅうのあらゆるところにひそんでいる「めんどくさい」仕組みです。

──片づかないのは人のせいではなく、家のせい、というわけですね! だから本のタイトルも『家じゅうの「めんどうくさい」をなくす』となっているんですね。

sea:そうです。ところがほとんどの人が、自分の家の「めんどくさい」ポイントに気付いていません。毎日の生活で慣れてしまい「こんなもんか」と思い込んでいるんですね。

 そこでこの本では「めんどくさいの見つけ方」から「なくし方」まで、誰でも実践できるよう順を追って説明しています。この方法で片づければ、毎日頑張ることなく「当たり前のように片づいている」のが普通になります。

──この本を読んで驚いたんですが、「めんどくさい」を作り出しているのは、次の5つのうちのどれかなんですね。私の家は、④と⑤のめんどくさい問題があるなぁと思いました。

① 収納がぎゅうぎゅう詰めになっている
② 戻すべき収納の場所までに障害物がある
③ モノを戻すまでに動作が多い
④ 戻すまでの場所が遠い
⑤ 戻す場所がバラバラ

 なぜ、この5つの「めんどくさい」が問題なんですか?

sea:それは、家が散らかる理由はひとつで、めんどくさくて使ったモノが元の場所に戻せていないからです。

 たとえば、収納がぎゅうぎゅう詰めになっていると、戻すべきモノが入りませんから、その手前に置いたり積み重ねたりしてしまう。収納棚の前にモノが置かれていたら、どけるのがめんどうで戻すのが億劫になる。収納する前に扉を開けたり、高い棚の上に置いたり、戻すまでの動作が多いとそれだけでめんどくさくなる。戻す場所までが遠かったり、戻す場所がバラバラというのも、よくある片づけられない原因です。

「こんなちょっとしたことで?」と驚かれますが、わずかな手間があるだけで、人はモノを戻せなくなるんです。逆に言うと、この5つのめんどくさいをなくすだけで、片づけられる人になるのです。

──確かに、モノをしまう場所が遠いと、そこに戻しに行くだけでめんどくさいと感じてしまいます。でもそれが当たり前だと思って、毎日行ったり来たりしていたので、この本を読んで「なんて無駄な動きをしていたんだろう」とハッと気づかされました。

sea:そうそう、慣れてしまうと本当に気付かないんですよね。たとえばお皿ひとつとっても、ホームパーティでしか使わないような大皿が、いちばん出し入れしやすい収納場所を陣取っているケースがよくあります。その一方で、普段使いのお皿があちこちバラバラにしまってあったりするのです。

 そういう方に「よく使うお皿をしまう場所がバラバラだとめんどくさくないですか?」と聞くと、「ああ、確かに」とおっしゃるんです。めんどくさいポイントを見つけてお伝えすると、この「確かに」というセリフを本当によく耳にします。それだけ、「めんどくさい」ことが当たり前になっていて、気付かず過ごしている方がとても多いんですね。

「片づけの習慣化」を目指すとリバウンドする

――片づけができない人は、片づける習慣を身につけようと思いがちですが、その考え方も間違っているんですね?

sea:はい。片づけの習慣化は、ほぼ無理です(笑)。私の元へ依頼に来る方も、「今日から頑張って片づけを続けたいんです。習慣化するにはどうすればいいのか教えてください」とおっしゃる方がたくさんいます。片づけに対する意識が高い人ほどその傾向が強いのですが、「それはやめた方がいいです」と説得します。その場でどんなに誓いを立てても、私が片づけを手伝って1、2ヵ月も経てば、元の状態に戻ってしまうのがありありと目に浮かぶので。

 人間の意志の力って、そんなに強くありません。もちろん、毎日片づけのことだけを考えられれば可能だと思いますが、家事や仕事や子育てにみなさん忙しいので、そこまで意識が回らないんです。

――言われてみると、習慣化ってハードルが高い気がしてきました……。

sea:「習慣を変えなくちゃ」と肩に力が入っていて、最初の数日だけ気合いで乗り切るような人ほどリバウンドしがちです。そして、「やっぱり今回もダメだった」と自己肯定感まで下がってしまうのです。それほど、習慣を変えるのは難しいことだと自覚してあきらめたほうがいいです。

 私の場合、「この人にとっての、めんどくさいのラインはどのあたりかな? どのくらいめんどくさくなくなったら、無意識のうちにできるようになるかな?」という観点で考えます。気持ちだけで習慣化を目指しても無理なので、気持ちよりも先に行動が変わるような仕組みづくりを重視するのです。

――無理して気持ちを変える必要はないから、仕組みを変えましょう、というseaさんのメッセージで気が楽になる人は多いと思います。

sea:どんなに美しい部屋に憧れて、インテリアを買い揃えて、形だけ真似しても、家の中に「めんどくさい」がある限り、片づけができない問題は解決しません。逆に、家じゅうのめんどくさいをなくすと、片づけられなかった原因そのものがなくなります。

 私が依頼者様の家でめんどくさいを1つか2つ見つけると、突然、依頼者様自身が次々にめんどくさいを見つけはじめるケースもよくあります。一度この感覚をつかめば、一生ものです。すると地道な努力も習慣づけも必要なしに、片づいた状態がずっとキープできるようになります。

『家じゅうの「めんどくさい」をなくす。』では、「めんどくさい」の見つけ方からなくし方までを説明しています。片づけで頑張りすぎている人、リバウンドしてしまうのは自分のせいだと落ち込んでいる人にこそ、届いてほしいと願っています。

6000軒を片づけた家政婦が教える「片づけられない人」の問題点sea(しー)
大学卒業後に始めた家事代行サービスの仕事にどっぷりはまり、20年以上にわたって個人宅の片づけや掃除を行ってきた。
いままでに片づけた家は6000軒以上。家事代行マッチングサービス「タスカジ」では「seaさんが片づけてくれると、なぜか家族の仲までよくなる」と口コミで評判になり、「予約の取れない家政婦」と呼ばれるようになった。
メディア出演や執筆、片づけ講座の企画・開発など幅広く活動を行う。著書に『タスカジseaさんの「リセット5分」の収納術』(主婦と生活社)がある。新刊『家じゅうの「めんどくさい」をなくす。』を上梓した。
6000軒を片づけた家政婦が教える「片づけられない人」の問題点