『アマゾンの最強の働き方──Working Backwards』が刊行された。アマゾン本社の経営中枢でCEOジェフ・ベゾスを支えてきた人物が、アマゾンの「経営・仕組み・働き方」について詳細に公開した初めての本として大きな話題になっている。
アマゾンで「ジェフの影」と呼ばれるCEO付きの参謀を務めたコリン・ブライアーと、バイスプレジデント、ディレクター等を長年担ったビル・カーが、「アマゾンの働き方を個人や企業が導入する方法」を解き明かした、画期的な一冊だ。
本稿では『アマゾンの最強の働き方』より特別に、ベゾスが会議を最適化した経緯とそのインパクトについて書かれた部分を紹介する。

アマゾン創業者が「だらだら会議」を一掃したすごい一言Photo: Adobe Stock

毎週「半日」かかる長い会議

 アマゾンの創業期、私(コリン)は「ジェフの影」、すなわちCEOジェフ・ベゾスとつねに行動をともにする参謀として、Sチーム会議の議題を取りまとめる立場にあった。毎週火曜日に4時間ほどかけて行う経営会議である(Sチームとは、シニアバイスプレジデントと、ベゾス直属の部下によるチーム)

 会議時間の約8割は実行状況の確認、つまりSチームの目標と照らし合わせながら各事業の進捗を確認するために使われる。2つか3つ、せいぜい4つまでの目標を選び、それぞれについて現状を確認し分析する。かなりコストがかかる会議だ。準備と会議時間を合わせれば、参加者は全員、毎週半日はこの会議のために使っている計算になる。

 創業間もない当時は、担当チームがまず現状と、目標達成のためにどのような活動に取り組んでいるかを報告し、その後、各項目について出席者が議論しながら詳しく分析していくという流れで進められた。報告はたいてい1人または数人の発表者が、パワーポイントのスライドを見せながら口頭で行った。

 しかし、期待した効果が得られないケースが多かった。現実の進捗状況を評価するのが難しいうえに、プレゼン自体が計画どおりに進まなかった。発表する側にとっても発表を聞く側にとってもストレスが多く、深掘りしようとする姿勢は空回りし、不十分で間違った結論に至ることが多かった。(中略)

「パワポを使わない」という一言

 2004年6月9日、Sチームのメンバーは次のような件名のメールを受け取った。

「今後Sチームでは、パワーポイントを使わない」

 単刀直入、そして天地をひっくり返すような宣言だった。その日からSチームでは、自分のアイデアを説明する、ナラティブ(叙述形式)による文書を作成してからプレゼンに臨むことが義務づけられたのである。パワーポイントは完全に姿を消した。

 メールを発信したのは私だが、もちろんジェフの指示による。これほど重大な方針転換を命じることができるのは彼しかいない。メールを発信した私はとても爽快な気分だった。Sチームの会議を格段に進化させる方法をようやく発見したのだから、だれからも称賛されると信じていた。

 しかし、それはとんでもない間違いだった。メールはアマゾンの幹部たちに衝撃を与え、即座にだれもがほとんど同じ反応を示した。「冗談はやめてくれ」。その日の夕方から何日間か、この重大な変更について問い合わせの電話やメールが殺到し、私は対応に追われた。

 とりわけ慌てたのは、1、2週間後にプレゼンを控えているSチームのメンバーたちだった。

 彼らは、大急ぎでナラティブによるプレゼンに切り替わった意味を理解し、持てるスキルを駆使してプレゼンに臨まなくてはならなかった。何カ月間も温めてきたアイデアが実現するかどうかは会議の展開次第だった。

 そうした反応は予想しておくべきだった。何と言っても2004年6月のその日まで、アマゾンの会議ではだれもがパワーポイントを使ってアイデアを共有していたのだから。多くの企業では未だにそうだろう。

パワポ頼りでは、つまらないアイデアもよく見えてしまう

 パワーポイントの功罪について、いまでは多くの人が認識している。

 カリスマ的魅力のある経営者が、耳に心地よいフレーズや動く画像満載のスライドを駆使して熱狂的に語りかけるプレゼンを聞くのは楽しい。数日後、内容を思い出せなくてもどうってことはない。垢抜けないテンプレートに文字を詰め込んだ、締まりのないプレゼンを聞かされるよりはずっといい。緊張した発表者がスライドの操作で立ち往生するのを見せられるよりもましだろう。

 だが、パワーポイントに頼ったプレゼンの弊害には十分に注意しなければならない。実際、かつての私たちのような使い方をしていると、意思決定の質に悪影響を及ぼす可能性がある。

 プレゼンがダイナミックに演出されると、聴衆はつまらないアイデアにも好意的に反応することがある。反対に、プレゼンの手際が悪いと聞き手は議論のポイントをつかめず、アイデアがよくても積極的に検討できない。単調なプレゼンだと聞き手の集中力は途切れ、無関心になったりメールをチェックし始めたりする。だるい口調やつまらない画像のせいで、素晴らしいアイデアが見過ごされてしまう。(中略)

資料は会議の冒頭に「黙読」する

 検討すべき議題が示されたナラティブの資料は、会議に参加する全員が、会議室で、会議の冒頭で一斉に黙読するのが最も効果的だ。このやり方を導入した直後は、沈黙が奇妙に感じられるが、何回かやるうちに慣れてくる。声は聞こえないが、黙読の20分間で、しっかり書かれたナラティブから多くの有益な情報を得ることができる。

 1ページを読むのに約3分はかかるので、文書の長さは6ページまでとした。30分の会議なら3ページの文書が適当だろう。会議時間の3分の2は検討時間に充てるのがよい。

 もちろん、文字を読むスピードは人によって違う。添付文書まで読めてしまう出席者もいれば、そこまで速く読めない者もいる。参加者のフィードバックについては、クラウドで文書を共有し、出席者全員が互いのコメントを閲覧できるようにする方法もある。

 私(コリン)は紙にコメントを書き込むほうが集中しやすい。リアルタイムで他の出席者のコメントを見てしまうと、それによって自分の考えが影響を受けることがあるが、紙に向かっていればその心配はない。どのみち、他の参加者の意見は、会議のなかですぐに聞くことができる。

「資料の説明」はなし

 全員が資料を読み終えたら、そこから先は提案者が会議を仕切る。慣れていないと、「まずは資料の概要を説明します」とやってしまいがちだが、その誘惑に負けてはならない。それは時間の無駄だ。そもそも文書を作成したのは、論理を明快に示し、口頭での提案にありがちな弊害を取り除くためだ。出席者はすでに論点を理解している。

 会議の進め方はチームによってさまざまだ。参加者のなかから全体に関するフィードバックを募ったあと、1行ずつ順を追って質疑を進めていくグループもあれば、1人ずつ順に文書全体について意見を述べてもらうグループもある。やり方についての正解は1つではないので、自分たちに合った方法を選べばよい。

 そして議論が始まる。つまり、聞き手が提案チームに質問を浴びせる。わかりにくかった点について明確化を求めたり、チームの意図に探りを入れたり、見解を述べたり、改善点や代替案を提示したりする。

 提案チームは大変な苦労をして、真剣に考え抜いたうえで資料を準備している。それだけに、聞き手にも本気で発表内容と向き合う責任がある。結局のところ、会議の最大の目的は、あるアイデアや議題について徹底的に真実を追求することだ。提案チームと聞き手が議論を深めて調整を行った結果、アイデアが最良のものになればよいのだ。

 議論については、参加者全員のために議事録を作成することが重要だ。議題について知識があって、メインの発表者ではないだれかが議事録の担当となるのが理想的だ。発表者は質問対応で精一杯になることが多く、議事録を作成するのは難しいからだ。

 議論が始まったとき、だれもメモを取っていないようなら、礼儀正しく会議を中断し、議事録の作成者を決めるのがよいだろう。議論に熱が入った重要な点を記録しておくことは大切だ。

(本原稿は『アマゾンの最強の働き方』からの抜粋です)