調査官の経験と感性がパズルのキーを見つけ出す

 調査カードには、売上や仕入、所得金額(利益)、申告納税額が記入され、過去の調査状況や接触状況等が整理されている。その中には毎年の確定申告書に添付された決算書が入っていて、調査で収集した資料や法定資料が挿入されている。

 調査選定をするために最も重要なことは、調査カードを何度も見直すことだ。調査は税務職員の「感性」が最も重要で、同じ人間が見ても、その時々によって「ひっかかる」ものが違う。一度見た調査カードを2カ月後に見直すと、思わぬ点に気がついたり、逆に「いける」と思っていたことが、そうでもないと思えたりする。

 一人の人間が見ても、その時々によって「感性」が違うのだから、いろいろな人間が目を通すことがさらに重要だ。いろいろな人間が自分の「感性」と「経験」をフル動員して「調査のパズル」を解く「キー」を捜していく。

 ある人は、学生時代に「ラーメン屋」でアルバイトをしたかもしれない。また、ある人は、建設作業員のアルバイトをしていたかもしれない。

 どんな経験でも、今まで生きてきた中で何か調査に役に立つことが必ずある。過去の調査での経験、実家の家業、友人の事業、いくらでも事業に精通する機会はある。

 よって、調査カードを見る調査官が多ければ多いほど「調査のパズル」を解く「キー」に近づく確立が上がる。そして、各々の調査官が自分の意見を調査部門のメンバーに伝える。すると、他の職員が反論する場合もあるし、補足の意見を述べる場合もあるだろう。一人ひとりの経験値は小さくても、調査部門の全員の経験値を使えば「パズルのキー」は解けるかもしれない。

 そして、この調査選定の行為自体が税務職員全体の調査レベルの向上に繋がり、税務調査の充実が申告納税制度の不公平の解消につながっていく。

 今回の調査で「パズルのキー」となったのは、遠隔地に開設された妻名義の預金口座の取引資料だった――。

(次回は12月19日更新予定です)


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