1月28日、首相官邸で記者団の取材に応じる首相の岸田文雄。自民党内の保守派から突き上げを食らい、「佐渡島の金山」を世界文化遺産の候補として推薦する方針を表明した1月28日、首相官邸で記者団の取材に応じる首相の岸田文雄。自民党内の保守派から突き上げを食らい、「佐渡島の金山」を世界文化遺産の候補として推薦する方針を表明した Photo:JIJI

 北朝鮮によるミサイルの発射は年が明けてから7回に及ぶ。性能向上も著しい。とりわけ1月30日朝の発射は中距離弾道ミサイルで日本列島全域が射程に収まるものとみられている。官房長官の松野博一は「烈度の高いミサイル」という広辞苑にも載っていない言葉を使って抗議の意思を表明した。

 防衛省幹部によると、「烈度」はしばしば防衛省内では使われている表現のようだ。「深刻度を増した軍事的インパクトが強いこと」(同省幹部)を意味するという。実際、30日の発射はロフテッド軌道と呼ばれる高い高度に打ち上げられる方法で、より高速で落下するため迎撃が難しい。

 しかし、日本は抗議以外に打つ手がない。防衛省幹部も「北朝鮮はやりたい放題」と語る。背景にあるのが一触即発のウクライナ情勢だ。ロシアの大統領、プーチンはウクライナの国境周辺に10万人規模のロシア軍を展開させ、米バイデン政権と厳しく対立する。中国をはじめ全世界の関心がウクライナに向かい、北朝鮮は「米国の関心を引くための手段としてミサイル発射を繰り返した」(日本政府高官)との見方が有力だ。

 次の焦点は北京冬季五輪・パラリンピック(2月4~20日、3月4~13日)の期間中に発射があるかどうか。30日の発射を最後にしばらく休止との見方が有力だ。

 今回のミサイル発射は、2017年の17回にわたる連続発射を想起させる。当時の首相、安倍晋三は全国瞬時警報システム(Jアラート)を頻繁に発動し、ついには「国難突破」を大義名分にして衆議院解散に踏み切った。

 ところが北朝鮮の最高指導者、金正恩は米大統領のトランプ(当時)との対話路線に転換した。18年2月に韓国で開催された平昌冬季五輪には正恩の妹、金与正が高官級代表団の一員として訪韓して大統領の文在寅とも会談した。日本側も東京五輪を控え、安倍が韓国を訪れ、北朝鮮側と接触、拉致問題の早期解決を訴えた。

 しかし、今回は新型コロナウイルスの「オミクロン株」の感染爆発も重なり、日本外交の手立てはほとんどない。むしろ日韓関係は一層悪化に向かう。その決定打が新潟県「佐渡島の金山」を巡る国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産への登録問題だ。