ブラックホールに吸い込まれる
日本の貯蓄資金

 日本には潤沢な貯蓄がある。家計部門は将来への不安から貯蓄に励んできた。企業部門も守りの経営を固め、投資を控えて企業貯蓄を積み上げてきた。こうした潤沢な貯蓄資金が金融市場に流れ込み、国債購入に回っている。日本の貯蓄が日本の国債購入を支えているのだ。

 個人や企業のレベルでは将来に備えて貯蓄に励んでいる。しかし、マクロ経済で見れば、その貯蓄の大半は財政赤字というブラックホールに吸い込まれてしまっている。この財政赤字は基本的に社会保障費によるものと考えてよいだろう。社会保障制度の改革がなかなか進まないなかで、社会保障費の公費負担が毎年増えている。それが財政赤字となって、民間貯蓄を吸収する結果となっている。

 社会保障制度は重要である。高齢化が進めば、社会保障費が拡大することは当然だろう。ただ、それが財政赤字という形をとれば、貯蓄資金を吸収することになる。本来であれば、将来への投資のために使われなくてはいけない貯蓄資金が、財政赤字の穴埋めに使われている。将来への投資を行わない社会の未来は明るくない。

 将来への投資はいろいろな形をとりうる。公共投資や設備投資だけではない。若い人たちへの教育投資もあるだろう。少子高齢化に対応するため子育てを支援することも、将来への投資と言える。科学技術への投資や海外への投資も将来への投資である。こうしたさまざまな形の投資を行うことで、はじめて将来に希望を持つことができる。しかし残念ながら、日本の潤沢な貯蓄の多くはこうした投資に回っていないのだ。