2つの世界大戦を、自分なりに解釈できるか

日本が変わるためには、本物のエリートが必要だ<br />『なぜ、日本では本物のエリートが育たないのか?』刊行記念特別対談<br />【出井伸之×福原正大】(後編)福原正大(ふくはら・まさひろ)[株式会社IGS代表取締役] 慶應義塾大学卒業後、1992年に東京銀行に入行。INSEADにてMBAを取得。「グランゼコールHEC」で国際金融の修士号を最優秀で取得。筑波大学博士号(経営学)取得。2000年、世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズに転職。35歳にして最年少マネージングデイレクター、その後、日本法人取締役に就任し、アイビーリーグやインド工科大学などの卒業生とともに経営に関与。ウォートンやIMDなど世界のトップ大学院にて多くのエグゼクティブ研修を受ける。2010年、未来のグローバルリーダーを育成する小中高生向けのスクールIGS(Institution for a Global Society)を設立。2011年、日米リーダーシッププログラム日本側デリゲートに選出。

出井 日本人は日本の国というものについては、深く考えていないんです。でも、ヨーロッパに暮らしていると、第一次大戦の戦勝国、という議論があると、いまだに日本は入っているという前提で議論が行われるわけですね。そして第二次世界大戦のときは、敵に回した形になっている。
 戦勝国と、敵国と、両方の日本があって、それについてどんな見解を持っているのか。それぞれの戦争について、どういう認識を持っているか。それはビジネスの場でも問われるんですよ。だから、自分の解釈で答えられないとまずい。
 でも、それができていれば、例えば映画を見ても、ああこれはアメリカの見解だな、ということが見えてきたりする。ベトナム戦争ひとつとっても、いろいろな受け止め方があるということがわかる。

福原 その重要性が日本人はわかっていない、と。

出井 日本は平和ボケしているんだ、と改めて思いました。それこそ日本はずっと平和でしたけど、世界では戦争は続いていたわけです。キューバ危機だってあったし、ベトナム戦争も、湾岸戦争も、イラクも。ヨーロッパでも戦乱は続いてた。
 僕がヨーロッパにいた頃は、戦争の記憶が少しは日本にも残っていました。それでも平和ボケしていたんですから、今はもっと平和ボケしているんじゃないですか。日本は戦争をしないことが当たり前になって、文化や文明の衝突を前提としない国になってしまった。国同士が衝突する場面がどういうものなのか、想像できなくなっている。

福原 私も留学に出るときに、日本と世界に何が起きていたか、みたいな本を急いで読んで行ったんですが、そのくらいの知識は向こうのエリートたちはみんな知っているんですよね。彼らが聞きたがっていたのは、それでお前はどう考えているんだ、ということでした。ところが、そこは全然考え切れていなかった。大局観があっても、部分的なものが見えていなかったり。
 それと、ハンチントンの『文明の衝突』のようなベーシックな本は、みんなしっかり押さえていますよね。読んでいるのが、彼らのベースなので、こちらが読んでないまま行くと、話に加わることもできない。日本文明が単独で扱われていることについてどう思うか、なんて質問が飛んできて、自分で語れなかったのを恥ずかしく思いました。

出井 さっき言ったように、例えば、鎖国は何なのか、ということを自分で考えることが大事なんです。学校では、鎖国をやったために日本は文明開化が遅れました、なんてことを教わることが多いけれど、本当にそうなのか。鎖国の間に、日本が醸成できたものもあったわけですね。日本の文化がそうです。ハンチントンが単独で日本をひとつの文明圏と見たのは、こんなところにも背景があるわけですよ。
 でも、それはあくまで外国の見方ですから、自分から見てどうなのか、を考えないといけない。僕にはひとつ気づいたことがあって、広島県の人と大勢で話したとき、「昔、どこの藩に所属していた地域の出身か」ということで大いに盛り上がったんです。これは長野県も同じですが、同じ県でも昔は違う藩だった、という地域は多い。日本の文化を語るなら、むしろ県を廃止して藩に戻したほうがいいんじゃないか。そんなことを思ったりもするわけです。日本人は、日本のことをやっぱり知らないんですよ。