放り出されることで、人は育つ

日本が変わるためには、本物のエリートが必要だ<br />『なぜ、日本では本物のエリートが育たないのか?』刊行記念特別対談<br />【出井伸之×福原正大】(後編)

出井 ビジネスはソニーの顧問弁護士だったアメリカ人の弁護士に鍛えられましたね。ユダヤ人でね。ものすごく言葉を大事にするんです。何より契約が重要だ、言葉が重要だ、と。取引を切るのも、契約であり、言葉なわけですね。
 ところが、フランスに駐在したときに、アメリカ流で仕事をしようとしたら、うまくいかないんです。契約で取引を打ち切ろうとしたら、「ローマ法のもとではこれはずっと継続が前提だ」と。契約なんてもので、取引は切れない、何を言っているんだ、と。このギャップにはずいぶん苦労しました。

福原 なるほど、実体験で文化の違いという苦労をなさったんですね。

出井 その意味では、ソニーにヨーロッパ的な考え方を初めて持ち込んだのは、僕だったんです。僕自身だんだんグローバル化していくわけですが、まずは日本で学んで、それからスイス、フランスで暮らしているうちにヨーロッパの文化がわかってきて。ヨーロッパとアメリカがまったく違うということにも気がついて。
 しかも、ヨーロッパでもイギリスはまた違う。さらに同じアメリカでも、ハリウッドの会社とニューヨークの会社では違う。音楽業界と映画業界も違う。こういうのを、ずっと実体験で学んで、自分自身がグローバル化していったんです。

福原 日本企業もずいぶん海外展開が進んで、出井さんと同じような経験ができる環境にもあると思うんですが、なかなか人材がグローバル化できないという声も聞きます。何が違うんでしょうか。

出井 昔と違って通信状態が良くなって、本社の命令が聞けてしまうことじゃないですか。本社の命令ばかり聞いていると、現地で感じる違いも無視できてしまう(笑)。僕たちの頃は、本社の命令がなかなか来なかったから、自分でぶつかっていくしかなかった。
 グローバルな視点というのは、ローカルな視点の違いから生まれるわけです。ぶつかってローカルな視点が得られなければ、グローバルな視点も得られない。極端な言い方をすれば、本社の命令を聞いていると、外国で働いていることにはならないんです。

福原中央集権的な企業ではなくて、ローカルに権限を委ねてくれる会社のほうが、人は育つということですね。

出井 そう思いますね。昔からそうですよ。ちょっと古いんですが、東インド会社にしても、イギリスはどんどん若い人を海外に放り出したことで、人材が育ったわけです。泳げるか泳げないか、わからないけど、とにかくやってこいという姿勢から、人が輩出されていった。

福原 シンポジウムでも、経験重視の平均的な教育だけでなく、突出した才能を伸ばしていける教育も重要だ、とお話されていましたが、これはビジネスの世界でもそうなんですね。